ONE NIGHT BATTLE
今日は仕事でミスをした後輩を慰めようと、河上が開いた飲み会だった。
これがなかなかやらかしてくれる問題児で、指導係の河上は手を焼いている。
後輩を指導する立場同士、愚痴でも聞いて欲しかったのか。聞いてあげられなくて申し訳ない。
「じゃあね、悠」
もう会うことはないから、「また」は言わない。
「澪」
悠が立ち上がった私の手首を掴む。反射的に振りほどこうとしたけれど、解放されない。
「帰るなよ」
「帰る」
「帰らせねえよ。同僚さん、悪いけど澪譲ってくんない?」
「ちょっと、何言ってんのよ」
手首は掴まれたまま。でも悠の視線の先は河上で、私に目もくれない。私の意思は関係ないってこと?
これは河上が折れる流れだと、8割方諦める。
河上は優しい。いつでも誰に対しても。気配りもできて男性からの信頼も厚い。見た目もいいから女性人気も高い。そんな河上だから、当然譲歩するだろう。
「申し訳ない顔見知りさん。譲る気ないんで月城連れて帰ります」
まさか、あの河上が食い下がるとは思わなかった。もしかして、本気で嫌がってる私のため?良い奴すぎる。
ぐ、悠の手に力が入る。痛くはないけど、アザになりやすい体質だからやめて欲しい。
数秒間の沈黙。口を開いたのは悠だった。
「河上さん、失礼な言い方してごめん。2人で飲んでたの知ってる。俺が邪魔してるのもわかってるんだけど、今日だけは澪ともう少し居させて欲しい」
予想外のまともな態度に意表を突かれ、自分の中の防御本能に狂いが生じた。
どうせもう、ただの飲み友達ルートが望めないなら。