逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
 上流階級の雰囲気が漂う蓮さんだから、きっとタワーマンションの上層階あたりに住んでいるのだろう。ドラマみたいなマウント合戦が繰り広げられる世界かもしれない。でも、それも脚本の素材になるかも──。

 そう考えていた私の予想は、心地よく裏切られた。

 都心にありながら、街路樹が短い間隔で植えられている落ち着いた環境のエリアに立つ、メゾネットタイプのテラスハウス。そこが、蓮さんの住まいだった。

 部屋は南向きで、こぢんまりとした庭には落葉樹が柔らかな木陰を作っている。その光景は、どこか秘密基地を思い出させた。自立式ハンモックが置かれていて、そこで読書を楽しむ蓮さんの姿が目に浮かぶ。

 緑が多いせいだろうか、リビングの窓を開けると、都会とは思えないほど心地よい風がそっと吹き抜けていった。

 室内は、まるでモデルルームのようにすっきりと整っていた。

 キッチンは作業効率を重視したアイランド式で、見たこともないハーブや調味料が、使い込まれた洋書のレシピブックと一緒に、造り付けのシェルフにきちんと並んでいる。

 キッチンとダイニング、リビングは一続きの空間になっていて、倉本先生のオフィスくらいの広さがありそうだ。

 リビングの大きなテラス窓は庭に面し、横のフォールディングドアは縁側へと繋がっている。都会の真ん中だというのに、まるで避暑地の別荘にいるような感覚だ。

 私は思わず、その風景に見とれてしまった。
< 32 / 590 >

この作品をシェア

pagetop