逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
「気に入った?」

 最後の段ボールを運び終えた蓮さんが、笑顔で声をかけてきた。

「とっても! 外と内との境界線が曖昧な家、すごく好きなの」

 こんなところに1年間も住めるなんて、まるで夢のようだ。蓮さんを拝みたい気持ちすら湧いたが、さすがにそれはやめておいた。変な行動は控えよう。

 蓮さんは段ボールを私の部屋に置くと、肩に掛けたタオルで汗を拭きながら私の隣に立った。その仕草がやけに色っぽく見えて、なんだか少し意識してしまう。

「境界線が曖昧……いい言葉だね。昔の家もそうだった。古民家は柱で支えられていて、ふすまや障子で空間を区切っていただけ。確か、『田舎の生活』でも、君が言ったような表現が出てきたな」

 その言葉にドキッとして、思わず彼の横顔に視線を移す。

 蓮さんには、この脚本を書いたのが私だということは話していない。

 結婚を決めたあの日、私は『田舎の生活』のことをひとまず心の奥へしまい、新たな脚本へ進むことを決心したのだ。

 だけど、いつか──。

 『田舎の生活』を好きでいてくれている蓮さんに、いつか伝えたい。

 ゆったりと蛇行する大きな川や、古民家が点在する田園風景、そしてそこに暮らす人々の物語は、私の生まれ育った町そのものだということを。
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