逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
 気がつけば、俺の声は熱を孕み、かすれていた。

 薫の手が、シャツの生地をぎゅっと握る。戸惑いがちにまつげを伏せ、そして静かに頷いた。それだけで、最後の理性が危うくなる。

 彼女を抱き上げ、寝室へと運び、ベッドに横たえる。唇を重ねながら、ネクタイを緩め、シャツを脱ぐ。もどかしさで指先が震えた。

 そのとき、薫の手がそっと俺の脇腹に触れた。そこにある古い傷を、指先で確かめるように撫でる。それから彼女はふいに顔を寄せ……傷跡に、優しく口づけた。

 瞬間、胸の静かな熱が広がるのがわかった。まるで、過去の痛みさえも溶かしていくような、温もりだった。

「薫……」

 抑えきれない想いが溢れ、彼女を強く抱き寄せる。そしてもう一度、深く口づけた。貪るように、そのすべてを感じながら。

 指先が、彼女の肌の温もりを求める。そっと胸元へと伸ばし、ボタンをひとつ外した。その瞬間、薫の手がそれを押しとどめた。

「蓮さん、ごめん……ちょっと、待って」

 少し怯えたような声だった。彼女は自分の胸に手を当て、鼓動を抑えるようにしながらきつく目を閉じる。そして、躊躇(ためら)いながら小さな声で囁いた。

「……あの、ですね……私、まだ……経験が……」

 その言葉に、思考が一瞬止まる。そして次の瞬間、胸の奥から、強烈な愛しさが込み上げた。

 強くて、優しくて、まっすぐで、そして……誰よりも大切にしたい人。

 衝動を抑えながら、薫の耳元へ顔を寄せる。そして、小さな耳たぶにそっと歯を立て、かすれる声で囁いた。

「優しくするから……やめてとは言わないで」

 その言葉に、薫の瞳がさらに潤む。指先が、ゆっくりと俺の胸に触れた。

 何かを言いかけた彼女の唇を、もう一度奪う。どれほどキスをしても、足りそうになかった。

 薫の吐息が、俺の中で静かに溶けていく。

 愛しいこの温もりを壊さぬように──深く、そして優しく抱きしめた。
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