逆プロポーズではじまる交際0日婚! 〜狙うのは脚本家としての成功とXXX
 開けない夜と終わらない仕事はないと、誰かが言っていた。

 その法則は真理で、私の仕事も朝8時に完了した。

 データを倉本先生に送信したあと、私はよたよたと歩いて駅へと向かった。『きみあい』の第9話は終わったが、すぐ後ろには第10話が控えている。

 だけど今は家に帰ってシャワーを浴び、1時間でもいいから自分のベッドで眠りたかった。

 足早に歩く出勤中のサラリーマンの群れに逆らって駅へ向かう。エディターズバッグからスマホを取り出すと、ランプが点滅していることに気付いた。新着LINE、母さんからだ。

──調子はどう? 小学校が一緒だった隣のゆうちゃん、結婚が決まったみたい。薫はどうなの? シナリオライターなんかなれるわけないんだから、この間のお見合いの話、受けてみたらどう──

 全部読み終わる前に、私はスマホの画面を消した。

 LINEの文面を読み上げる母の声が、頭に響いているような気がして、疲労感がさらに重くのしかかってきた。

 とにかく寝て、後のことはそれから考えよう。どうかどうか、電車が空いてますように。ゆっくり座れますように……。

 駅の改札への階段を上がろうとしたとき、ビルの隅で荒れた怒声が響いた。振り返ると、朝だというのに見るからに泥酔しているサラリーマンが、出勤途中の女性の腕を強引に掴んでいた。
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