君の瞳の中で生きてみたくて


あれは、塾帰りの高3の夏だった。

わたしは歩道橋の上で下を走って行く車やトラックたちを眺めていた。

ここから飛び降りれば、、、

わたしはそう思いながら、柵の手摺りに手を掛けた。

すると、

「何してんの?」

車の走って行く音に紛れて、静かな声が響いた。

わたしがふと声がした方を向くと、そこには同じ高校で同じクラスの伊澄千空くんが制服のスラックスのポケットに手を突っ込んで立っていた。

伊澄くんはいつもクラス一人で居ることが多かったが、だからと言って友達が居ないわけではなく、好んで一人で居る感じだった。

静かで口数は少ないのに、なぜか存在感はあって、ミステリアスな印象の人だ。

わたしが黙っていると、伊澄くんはゆっくりとわたしに歩み寄って来て、わたしの横まで来ると、歩道橋の下を覗き込んだ。

「飛び降りるつもりだった?」

わたしは走って行く車を見つめたまま、躊躇しながらも頷いた。

「ふーん。、、、どのタイミングで飛び降りれば、死ねるんだろうな。」
「えっ?」

わたしは伊澄くんの言葉に驚き、伊澄くんを見上げた。

てっきり止められるのかと思ったのに、、、

"どのタイミングで飛び降りれば、死ねるんだろうな。"?

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