ソクラテスと林檎の木


 早川駿と名乗ったK大4年の美少年のことは、シュンくん、若しくはシュンと呼ぶことにした。ついこの間まで自分も大学生だったような気がするのだけれど、こうして見るとやはり若いな、と思う。何がそう思わせるのかわからないけれど、まっすぐな視線や態度がひとつの要因であることは間違いない。
 先に美少年を風呂に入らせて、わたしはその間に残っていた仕事を少しだけ片付けた。サービス残業もいいところだ。本来ならやらないのだけれど最近は何かと忙しい。というか、わざと忙しくしてるのかも。
 美少年は20分もしないうちにリビングへと戻って来たので、お風呂交代。ほぼ初対面の男女といえど、4歳も年下の大学生とどうこうなるつもりは全くないので、このシチュエーションにはあまり抵抗がない。多分それはシュンくんのほうも同じだと思う。
 先に寝てていいからね、というわたしの言葉に返されたお礼を背中に、そういえば別れる数ヶ月前から元彼ともこんな風だったな、と思い出す。寝る時間を合わせることもなく、同棲しているのに違う時間軸で生きていて、一緒にいることが無意味に感じるようになってしまったんだろう。
 嫌なことを思い出してしまった。
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