【短】卒業〜各務昴の場合〜

プロローグ

俺は合理主義者だ。
根拠のないものや証明できないものは信じないし、ましてや感情に呑まれて行動する事もなかった。
新井かんな、彼女に出逢うまでは。

一目惚れなんて信じてなかった俺が、彼女に初めて会った時の感情を言葉で表すとするならば、まさに青天の霹靂、寝耳に水。まるで雷に打たれたかのような衝撃とも聞いた事があるが、良く言ったものだと感心した。

真っ直ぐに伸びた黒髪。小さい顔には大きく少し吊り上がった瞳と、形の良い鼻、真っ赤な唇が配置良く並んでいる。スラリと伸びた体躯は華奢で、どこか庇護欲をそそる。細く白い手が髪を耳にかける仕草が妙に色気を感じさせた。

一目で恋に堕ちた。

こう言っちゃなんだが俺はモテる。
初めて俺を見た女は大抵頬を染めてポーっと見てくる事が多い。
なのにかんなは顔色一つ変えず、平然としていた。
その事実に妙な焦りを感じつつも、浮ついたところのない彼女の内面にも心惹かれる自分がいた。

必ず彼女を落としてみせる。

俺が誰かに対して自分から好意を抱くのは初めてのことだった。
< 1 / 9 >

この作品をシェア

pagetop