【短】卒業〜各務昴の場合〜

新井かんなという女

かんなに会えるのは主に研究室の中だけ。
2年生の彼女はまだそこまで研究の時間が長くはない。
限られた時間の中で彼女をよく観察する。
研究態度は至って真面目。
無駄口は叩かず必要最低限な会話で周りとやり取りをしながら黙々と自分の作業をこなしている。
なかなか緻密な作業を求められる事の多い研究課題だが、指先の器用さと根気強さで前に進んでいく。

かんなに関する噂もよく耳にするようになった。
新井かんなといえば大学内では有名だったらしく、俺にかまいに来る女生徒達が主な情報源なのだが、女生徒達の言い方はかんなを良く思っていないことを如実に語っていた。
施設育ちである事やあまり愛想が良くない事、先週は告白してきた3年生をこっぴどく振ったとか振らないとか。
だから先生もあの女には気をつけた方がいいよ、と言われても、余計なお世話だ。
ただ彼女達がもたらす情報だけは非常に貴重なものなので、いつものごとくニッコリ笑うだけに留めておいた。
内心は彼女を悪く言われて腸が煮えくりかえりそうになっているだなんて、女生徒達はつゆ程も思わないだろう。

情報を集めながら彼女との距離をつめる。
研究に関する事から他愛のない天気の話や大学内の噂話、何の話題をふっても彼女は淡々と答える。
他の女生徒達と違って俺に話しかけられても嬉しそうには見えないが、嫌がっている訳でもないようだ。
中々辛口な切り返しをしてくる事もあるが、彼女の受け答えは頭の回転の速さが窺えて単純に会話が楽しい。
ただ、会話の頻度には気を遣った。
俺が彼女を特別視していると他の女生徒達に知られない為だ。
女のやっかみは厄介で恐ろしい。彼女に危害を加えられても嫌だし、自分がやっかみを受けるのは俺に特別視されているせいだと思われるのも困る。
それに、彼女自身もどこか人と一線を引いているふしがある。
それはどうも俺が相手の時に限った事ではなく、時々見かける彼女の友人達と接する時もそうだった。
施設育ちだという彼女の生い立ちが関係しているのかもしれない…
慎重に、でも確実に、距離を縮める必要がある。
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