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YouTubeチャンネル【幽月ほらら】2024年11月5日更新分

 *本項は、ホラー系ピューチューバー幽月ほららのチャンネルにて、2024年11月5日に更新された更新の一部をファンが保存していたアーカイブを入手し、文字起こししたものである。
 なお、このチャンネルは現在、削除されてしまっている。

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 ほら~! 幽月アンダーグラウンドへようこそ!
 ホラー大好きピューチューバーの幽月ほららです!
 みんな、集まってきてくれて、ありがと~!

 さて、今日はなんと、スペシャルビッグホラースポットに来ております。
 そ・の・名・も。
 S市にある、超有名な事故物件――『黄色い家』!
 そう。ついに! あの!
 ホラー界隈で有名な、あのS市に足を踏み入れたよー!

(家の周りはモザイク処理がされており、特定できないようになっている)

 幽月アンダーグラウンドが、あの!
『黄色い家』に足を踏み入れられる日が来るなんて、感慨深いよねー!
 うわ~。今日はいちだんと、コメントがすごい速度で流れていくよー。

 この家のヤバさはね、地元でも超有名なんだって。
 地元で噂になるほどだなんて、ガチっぽいよね。
 なんで『黄色い家』がホラースポットとして名をはせているのかっていうと、二十五年くらい前、この家に住んでいた一家全員が、心中したんだって。
 母親と子どもひとりがキッチンで倒れているのを、朝お子さんを迎えに来た、幼稚園の先生が見つけたって。
 あとから警察によって、寝室で首を吊っている父親も、発見されたんだよね。
 お父さんが、まずお子さんの首を絞めたあと、同じように奥さんの首を絞めて殺してから、自分は寝室のクローゼットでネクタイで首を吊って死んだみたい。
 悲しい話だけれど、話はまだまだここから。

 それから、何か月かしたころ。
 くだんの家で、物音がするようになって、ご近所さんたちは、不審に思ったみたい。
 家は空き家になっているはずだから、不良たちがたまり場にしているんじゃないかって、警察に連絡したんだって。
 でも、家には誰もいない。
 誰かが、家を荒らした形跡もない。
 その代わりに、家族がなくなったときの現場検証ではなかった、【黄色い何かのかけら】が、キッチンに点々と散らばっていたんだって。
【黄色い何かのかけら】が何なのかは、いまだにわからないままみたい。
 あたしの推理では、その【黄色い何かのかけら】が見つかったから、『黄色い家』って呼ばれるようになったんだと思う。
 でもさでもさ、【黄色い何かのかけら】が何なのか、めーっちゃ気になるよね!?

 ご近所さんに聞けばわかるのかなって思って、配信をはじめる前に、家の近くを歩いていた人に、話を聞いてみたんだけど。
 誰に聞いても「【黄色い家】の話自体は知っているけど、当時の状況を知る人は、もうほとんどいない」んだって。
 本当かな? 
 だってさ、なんかあしらうようにいわれたんだよねー。
 あのおじさん、嘘ついてないー?
 え? 大丈夫、大丈夫!
 こんなことでへこたれてたら、ピューチューバーなんてできないぞ!

 そういえばさ。
(小さな古い造りの家を指さす、ほらら)
 そこの家の人だけは、いろいろしゃべってくれたんだよね。

 うお、やべっ。
 表札、映っちゃったか? 
 まあ、モザイク処理するしね。
(なぜか表札には、モザイク処理がされていない。表札に、『常川岩男』と書かれている)

 うーん。
 この表札の名前、どっかで聞いたことある名前なんだよね。
 どこで聞いたんだっけ?
 って、モザイク処理すんのに、こんなこといったら、気になっちゃうよね。
 ごめんごめーん。
(表札へのモザイク処理は、引き続きされていない)

 この家の人が教えてくれたのはね、『黄色い家』の住人たちは、「なることを拒んだ。
 ならなかったから、家族もろとも死ぬしかなくなる。
 この町の価値にならない人間は、必要ではないのだから」。
 早口で、そういわれたんだ。
 あたし、圧倒されちゃって、カメラ回すことすら忘れちゃったよ。
 でもさ、どう?
 おかげで、一気に怖くなってきたでしょ。
 この話がマジなのかは、わかんないけどさ、おじさん、めっちゃ青ざめてた。
 ぶるぶる震えながら、しゃべってくれたんだよね。
 やばいでしょ。
 マジでしょ、これ。

 よーし。
 じゃあ、準備もできたし、さっそく『黄色い家』に潜入していこう!
(昔ながらの日本家屋。引き戸を開ける、ほらら。ガララ、と音が鳴る)

 おじゃましまーす。
 なんて、誰もいないんですけどね。
 定番ネタもキメたところで、さて、どこから見てまわろうかな。
 うわ、玄関の上がりはな、高あ……。
 廊下、荒れてるなあ。土足でいいよね。
 ホコリと湿気がすごいね。床も、ギシギシいってるし。
 右は、小さめの和室がふた部屋あるね。
 左は……お手洗いと、お風呂かな。
 二階への階段があって、奥がリビングとキッチンかな。
 ドラマとかでよく見る、典型的な昭和の日本の家って感じかな。
 でも、よくいうよね。
 人が住んでないと、家は死ぬって。
 これ、本当なんだなって、今思ったよ。
 空き家ってさ、人が住んでいないから、まず換気がされないわけ。 
 換気を習慣化していない人でもさ、外出するときにドアを開けるじゃん。
 それだけでも、換気になるんだってさ。
 ……ほら、見て。
 雨戸が閉まってる。
 空き家って、人がいなくても雨風をしのげるように、あらかじめ雨戸を閉めておくんだって。
 でもこれで、部屋に太陽の光が入ってこないわけ。
 それで、どんどん湿気がたまっていっちゃうんだよ。
 換気ができないと、カビが生えたり、水分を含んだ木材が腐ったりしちゃう。
 湿気がたまるから、害虫や害獣や住みやすい環境になるみたい。
 家に人が住んでいるってだけで、新鮮な空気を家の中に送りこめる。
 住んでなきゃ、それもできないんだよ。
 空き家の空気が違うのって、そこなんだろうなって思った。
 あたし、よく空き家や廃墟に動画取りに行くけどさ、現場はやっぱり妙な空気が漂っているわけ。
 霊とか、見えてはいけないものとかも、もちろんいるかもしれないんだけど、なによりも空き家特有の、不気味な雰囲気は、湿気によるものなんじゃないかなーって。
 ――まっ、そうだったらいいなってこと。
 実際に、何か起きちゃったら、湿気だなんていいわけもできなくなっちゃうよね。

 さて。いよいよリビングだ。
 つまり、事故現場のキッチンがある。
 みんな、準備はいいかな?
 おお。コメント欄も、盛りあがってきたね。
 ええ~! 同接104人っ?
 すごい、こんなに人が集まったの、初めてだよ。
 みんな、ありがとう~!
 初見の人は、ぜひぜひ、カワイイほららちゃんのチャンネル登録をして、幽月ほららのファン【アングラーズ】になってほしいな~! よろしく~!!
 ……ん? なんかいってる人がいるね。
『そこだけは、行っちゃダメなところ』、『キッチンにだけは行くな』、『まずい。遊び半分なら、帰ったほうがいい』……。
 心配してくれてるんだね、ありがと~!
 でも、大丈夫だよ。
 あたし、遊びでここに来てるわけじゃないんだ。
 本気でピューチューブを続けたいって思って、ここまで来たんだよ。
 だから、帰らない。
 はじめて『黄色い家』を攻略した配信者として、ホラー系ピューチューバーの頂点へと走り出すんだ。
 そのためにも、みんなのコメントが応援になるよ。
 お願い、着いてきてね!
『応援してるよ!』、『がんばって、ほららちゃん』、『着いていくよ~!』……ありがとう!
 うれしい。あたし、行くよ。帰らないから!
『ばかかよ』、『おれたちは止めたから』、『本当に帰ったほうがいい』……うーん。今日は、治安わるいね。
 仕方ないか。
 さすが、ガチホラースポット『黄色い家』ってことだね。

 さあ、じゃあまずはリビングに行こう。
(ほらら、リビングのドアを開ける)
 またここも、ホコリと湿気がすごいや。
(ジャリ、という、何かを踏みつける音)
 ……ん?
 これ、【黄色い何かのかけら】だ。
 警察に回収されてると思ってたよ。残ってるものなんだね。

『警察が回収したあと、また精製されたんだろ』……?

 これ、精製されるものなの?
 なんなの、これ?
 そうだ。ジップロック持ってきたんだ。
 もしかしたら、【黄色い何かのかけら】が落ちてるかもしれないと思って。
 さっすが、あたし!
 持って帰って、科学系ピューチューバーのモノノケさんに調べてもらおう。
『触らないほうがいい』?
 あたしは突撃型の配信者だからね。
 こんなことでビビったりしませ~ん。
 オッケー。きれいに回収完了。
 モノノケさんにはあとで連絡するとして……キッチンのほうに行ってみよう。
 キッチンでは、母親と、一人っ子だった娘が倒れていたんだよね。
 それを、朝娘を迎えに来た、幼稚園の先生が見つけたんだ。
 後で、父親が発見された、寝室のクローゼットにも行ってみよう。
 寝室は二階みたいだからね。後回し。

 キッチンは……家具や家電類は、そのままだ。
 処分するのって、かなりお金がかかるらしいからね。
 食材も、残ってるものは残ってるね。
 缶詰、カップ麺、乾燥わかめ、カレールウ……冷蔵庫のなかは……。
(右開きの冷蔵庫のドアを開ける、ほらら)
 なーんだ。入ってるは入ってるけど、固形コンソメとか、わざびチューブとか、そんくらい。
 あまり入ってないや。誰かが、持ってったのかな?
 この家族、母方の祖父母はもうなくなっているし、父方の祖父母も、祖父のほうしか存命じゃないんだけど、認知症を患っていて、施設で生活しているみたい。
 近しい親戚も、いないみたいだしね。
 だから、家財道具の整理をできるような親戚はいないようなんだけどな。

 まあ、これは置いておいて、二階の寝室に行ってみよう。
 キッチン、荒れてはいるけれど、これといった注目ポイントもないし……。
――ん? ……なんだろう。これ。
 シンクの下に、何かが落ちてる。ひろってみるね。
 黄色くて、丸くて、つるつるしてる。
『まさか食べ物w』? 
 いや、プラスチックにも見えるんだよね~。オモチャかな。
 これ、なんかにおいがする。
 香水がついてるのかな。
 でも、ここにずっと置かれていたみたいだし……へんだよね。
 甘くて、こうばしいにおい。
 変なにおいじゃないんだよ、いいにおいなの。
 ふわって、頭のなかに、このにおいが充満していくかんじ。
 はちみつカステラとか、パンケーキとかに似てるけど、ちょっと違うな。
 すっごくいいにおい。
 ことばにできないよ。
 かぐと、頭がちかちかして、ボーッとして、しあわせいっぱいになるんだ。
 きらきらのお花畑みたいな、ふわふわの雲のうえみたいな。
 まるで天使の輪っかみたいな、金色のにおいなの。
 すごい、こんなものがあるなんて、これはいったいなんなの?
 あたし、こんなのはじめて……。
 
 ああ、もう。コメント欄、うるさいなあ……。
『かぐな!』、『はやくもどれ。家から出ろ』、『もう手遅れだわ』……?
――なんで?
 なんでそんなこというのッ!
 こんなに、き、ききき黄色いんだよッ!
 あっ、黄色い、黄色い、黄色黄色黄色黄色黄色黄色黄色黄色が、うう、あ。
 うっ……。

 あたしじゃ、だめなの……?

 あたしには、資格がない……?

 そんな……。
 それじゃあ、もう、死ぬしかないや。

 さよなら。

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 アーカイブは、ここで切れている。

 このあと、幽月ほららは、寝室のクローゼットに行き、なぜか引っかかっていたネクタイで首を吊っていたそうだ。
 配信はしばらくそのまま流されていたが、視聴者がすぐに救急車と警察に連絡をした。
 数時間後、到着した救急隊員によって、幽月ほららはクローゼットから運び出されたが、死亡が確認されたらしい。
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