このインターネットの投稿について知りたい人は、配信に集まってください。

ホラーずきが集まるSNS内での配信 録音音声①

ニコ「こんばんはー」
佐鳥「ニコちゃん。こんばんは」
ニコ「久しぶり。何か月ぶりだろうねー」
佐鳥「二か月前のポイッターのスペース配信で話して以来じゃないかな」
ニコ「えー! めっちゃ久しぶりに感じるけど、二か月かあ」
佐鳥「意外だよねー」
ニコ「あはは。てか、最近あまりポイッターにいなくない? 忙しそうだよね。あっ、レインさんだ。こんばんはー」
佐鳥「おお、レインさん。久しぶりだ。……わあ。どんどん人が集まってくる」
ニコ「佐鳥くんの怪談朗読、人気あるもんねー。もう50人くらいのファンが集まってるよ。最近、忙しそうで、ポイッターでのスペース配信、やれてなかったもんなー」
佐鳥「いやあ、親からテストの点数つっこまれちゃってさ。配信の時間が取れなくて。最近は、ニコちゃんの配信もぜんぜん見れてなくて。ごめんね」
ニコ「いいよ、いいよ! あたしの怪談朗読は、あいかわらずだからさ。昨日のホラー映画の考察も十人くらいしかこなかったし~」
佐鳥「おっ、そのホラー映画って、最近公開したばかりの……『グラディス』かな?」
ニコ「そうそう! めっちゃいい映画だったよ! 近々、考察動画あげたいなと思っててさ」
佐鳥「それはぜったい見なくちゃ! 映画も、考察も!」
ニコ「へへ……あっ、佐鳥くんはどうなのー? 怪談朗読! あたし、佐鳥くんの怪談朗読のファンなんだからね。最近、更新頻度、減ってませんかー?」
佐鳥「うーん。テストの順位が、まじでやばくてさ。けっこう下がっちゃって……。塾、増やされそうなんだよ……」
ニコ「うわあ。最悪じゃん。今さらだけど、配信に付き合ってもらってよかったの?」
佐鳥「いやいや、ぼくが誘ったんだから、気にしないでよ――実は、ホラーずきのみんなと話したいことができたんだよね」
ニコ「話したいこと?」
佐鳥「うん。……2週間前の【アレ】」
ニコ「えっ。2週間前って……ピンスタのストーリーのやつ? うちらと同じ、中学生の子のアカウントをスクショに取られて、晒されちゃってたやつ」
佐鳥「そうそう。……あっ、アリスさんだ。お久しぶりです」
ニコ「わっ、お久しぶりです~。……えーっと、アレの話をしたいって……どういうこと? あたし、リポストで流れてきたやつをなんとなく見ただけで、あんまり知らないんだよね」
佐鳥「そうなんだ。ぼく、あのスクショを見た瞬間、耳鳴りで頭が割れそうになっちゃってさ。それで、どうしても気になっちゃったんだよね」
ニコ「佐鳥くんがそうなるってことは、もしかしなくても……そういうこと?」
佐鳥「うん……可能性は十分にあるね」
ニコ「耳鳴りイコール、霊的な反応を感知したって……ことだったよね」
佐鳥「ふだんから、霊の反応は感知してるんだよ。でもいつもは、ちょっと鳥肌がたつていど。耳鳴りまでしたってことは、かなり強い反応だよ。だから、少し調べてみようかと思ってさ。あの投稿のこと」
ニコ「そんなに強い反応がしたっていうのは……ちょっと怖いね」
佐鳥「うん。だから、ふだんから怪談の話をして盛りあがっているみんなに、ぼくの考えを聞いてもらいたいんだ。いいかな?」
ニコ「もちろん、いいけど……調べて、どんなことがわかったの? こんなポイッターの配信で、しゃべっちゃっていいのかな。まあ、ここにいる50人くらいの人たちはみんな、佐鳥くんのファンだし……。それに、レインさんとアリスさんは長いお付き合いだし……。心配するようなことは、ないとは思うけど」
佐鳥「うん。じゃあ、まずはあのポストについて、おさらいしてみようか」
ニコ「は、はい……」

 ⬛︎

佐鳥「まず、知っておいてもらいたいんだけど」
ニコ「うん」
佐鳥「飛び降りたクラスメイトのほうが興梠蓮華という名前で、ストーリーを投稿したほうは坂巻伊呂波というらしい」
ニコ「はっ? ちょ……それ、本名っ? だめだよ! この配信、録音してるんだよ!」
佐鳥「名前をいわないと、話しにくいんだよ。録音は、削除すればいいでしょ」
ニコ「うーん。それでいいのかなあ……」
佐鳥「あれは……2週間前の、10月4日。ポイッター内の、とあるポストがバズったことで、栄みらい市内に住む、坂巻さんのピンスタが炎上したんだよね」
ニコ「うん……」
佐鳥「内容は、坂巻さんが、興梠さんに学校の屋上から飛び降りをさせた、という内容のストーリーだった――と、いうことになっているね。インターネットでは」
ニコ「そうだね……」
佐鳥「その後、坂巻さんのピンスタで、真っ黒の画像が数十枚、連続投稿される。それは、ただの黒い画像ではなく、グリッド投稿というもので、暗闇のなかで死体を撮った1枚の大きな画像を、分割して投稿したものだった——これが、一連の流れだったよね」
ニコ「実際に、テレビのニュースでも、栄みらい市で中学生の飛び降りがあったという報道があった。未成年だから、どちらも本名は明かされなかったけど。でも、あのアカウントの子で間違いないって、ネットではいわれてた……。例のグリッド投稿はかなり奇妙だった。なんで、飛び降りした子の写真を撮って、分割して、投稿したんだろう。わからない……」
佐鳥「坂巻さんは、ネットでかなり誹謗中傷をうけたみたいだ。もうアカウントは消したみたいだけどね」
ニコ「インターネットって、楽しいこともあるけど、めちゃくちゃひどいところもたくさんあるよね……。今回の話は特に、ひどいよ!」
佐鳥「うん。本当にね。……インターネットでそんなことをすれば、必ず証拠が残るんだからね」
ニコ「……証拠?」
佐鳥「坂巻さんのグリッド投稿だよ。アカウントは消されたけれど、ネットの海から完全に消え去ることは不可能に近い。とうぜん、まとめサイトにポストがまとめられていた」
ニコ「いわゆる、ウェブ魚拓ってやつだね……。ピンスタのアカウントを消しても、画像をスクショしたものが、ネットに投稿されてしまっているから……」
佐鳥「その通り」
ニコ「それで? 何がわかったの?」
佐鳥「坂巻さんが、グリッド投稿をした理由だよ」
ニコ「理由……なんてあるの?」
佐鳥「そもそもピンスタで、みんながグリッド投稿をする理由を知ってる?」
ニコ「うーん。あたし、ピンスタはやってないからなあ」
佐鳥「メリットがあるからだよ」
ニコ「メリット……。画像が大きくなって、見やすい……とか?」
佐鳥「おおむね、そういうことだね。もう少し、補足すると投稿した画像を印象的に見せるため。画像を分割して投稿することで、一枚の絵に見えるようにする。これで、通常よりも大きいサイズの画像が表示されているみたいになるから、より『映える』んだ。だからインフルエンサーはもちろん、企業の公式アカウントも広告の画像はグリッド投稿で宣伝するようになったんだってさ」
ニコ「なるほどね。……それはわかったけど、例の坂巻さんがグリッド投稿をした理由っていうのはどうしてなの?」
佐鳥「《多くの人間に見せるため》だよ」
ニコ「えーっと、まさか。し……死体の画像を——って、こと?」
佐鳥「そう」
ニコ「いやいやいや。動機がわかんないよ……何のために?」
佐鳥「動機は……飛び降りたクラスメイトに、成仏してもらうため、なんじゃないかな」
ニコ「え。グリッド投稿が……成仏? どうして?」
佐鳥「うん。投稿がバズると、たくさんの人に見てもらえるよね。これって……インターネット上で【お葬式を開こうとした】んじゃないのかな、と思うんだよ」
ニコ「え……?」
佐鳥「リアルと違ってインターネットって、いつもたくさんの人がいるよね。だから、ひとりさみしくこの世を去るなんてことはさせたくなかったんじゃないかな。だから、グリッド投稿で、たくさんの人に興梠さんを見てもらいたかったんじゃないかと思う」
ニコ「どうしてそんなことを?」
佐鳥「興梠さんには、この世への未練があった。それを坂巻さんは断ち切りたかった。未練なくこの世を去ってもらおうと、たくさんの人に画像を見てもらおうとした。それが、グリッド投稿につながったんじゃないかな。同情したからなのか、これ以上関わりたくなかったのかは、わからないけれどね」
ニコ「……いじめていたのに?」
佐鳥「坂巻さんは、いじめなんてしていなかったと思うよ、たぶん」
ニコ「そうなの?」
佐鳥「いじめではない何かが、ふたりのあいだにあったことは、確かだろうけどね」
ニコ「その、何かって?」
佐鳥「それがわかれば、調査の苦労はないよ。興梠さんが屋上から飛び降り理由も、まだ何もわからないね」
ニコ「興梠さんの未練っていうのは?」
佐鳥「調べてみたけれど、それが奇妙でね」
ニコ「奇妙……?」
佐鳥「『蟲歌さまになりたい』というものだったんだ」
ニコ「なにそれ」
佐鳥「さっぱりだよ」
ニコ「てか、そんな情報、どこから仕入れたの?」
佐鳥「情報元は、これ。今、ニコちゃんのDMに送ったよ。坂巻さんと、興梠さんのポイッターアカウント」
ニコ「ええ~、よくないよ。知り合いでもないのにこんな、誰かのアカウントをのぞきに行くなんて」
佐鳥「インターネットで公開されているアカウントなんだから、そんなふうに思うのは変じゃない?」
ニコ「そういわれたら、そうかも知れないけど……。さっきの坂巻さんや、興梠さんの情報も、このアカウントで調べたこと」
佐鳥「まあ、多少はね。ニコちゃんも気になっているんでしょ? ニコちゃんって、人の目を気にするところもあるけれど、興味を抱けば、とことん調べつくすタイプの人間だもんね。ぼくと、同じでさ」
ニコ「わかった。わかったよ。見るよ。ふたりの鍵アカウント」
佐鳥「うん。ポストの数は、ふたりともえげつない数字だから、事件と関連ありそうなポストだけ抜粋して、まとめたものも、いっしょに送ってあるよ。しっかりと、目を通してみて。何かが、見えてくるかもしれない。通常では考えられない、何かがね」
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