魔法通りの魔法を使わない時計屋さん

 ボーン、ボーンと振り子時計が12回鳴り終わった頃に男は戻ってきた。

「私、《普通の》って言いましたよね?」
「いやぁ、だって可愛かったから。僕も同じのを買ったんだ。ほら」

 男が買ってきたサンドイッチはいつもリリカが買う《普通の》ではなく、子供向けのピカピカと光るサンドイッチだった。
 しかし買ってきてもらって文句は言えない。仕方なくリリカはお礼を言ってにこにこ顔の男からそれを受け取った。ハムサンドはいつもと同じでピゲはほっとした。

 カチャ、とリリカは男の分の紅茶をカウンターに置く。

「良かったらどうぞ。お砂糖いります?」
「あぁ、ありがとう。もらおうかな」

 頬をピカピカと光らせながら立ち上がった男を見てリリカは心底呆れた顔をした。
 カウンター奥に座り自分もその光るサンドイッチを食べながら、リリカは訊く。

「この時計、どこで手に入れたんです?」
「え? あぁ、知り合いからね、直せないかって相談されたんだ」
「あなたのものじゃないんですね」
「うん。でも、すごくお世話になっている人でね。だから、君が直してくれたらその人も喜ぶんだけどな」

 ティーカップ片手ににっこりと笑った彼に、リリカはカウンター越しに半眼で答える。

「残念ながら、ここにいても時間の無駄ですよ」
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