すべてはあの花のために②

 そうこうしているうちに、ツバサが選んできた水着を葵に当て始めた。


「アタシはこれがいいと思うわ」


 何色だろうと思ってタグを見てみると、そこにはモスグリーンと書いてあった。


「翼にしては珍しいチョイスね。どうしたの?」

「アンタのイメージがこの色だから」

「あたし的にはもっと明るい色でもいいと思うけど、その色も合いそう!」


 盛り上がっているキサを余所に、葵は水着に視線を落としたまま固まっていた。どうしたのだろうとツバサは葵を覗き込む。


「気に入らなかったら戻してくるわよ?」

「ええ! やだよ! わたしこれにするもん! ツバサくんありがとう!」


 いつもの微笑みではなく、満面の笑み。それを至近距離で食らったツバサが、今度は固まる番だった。


「あらあらまあまあ!」

「……あれ? ツバサくんどうし――」

「つ、次はアタシのを選ぶわよ!」


 慌てて店を出て行くツバサの様子に、少しだけ不安になった葵だったが、「喜んでもらえて嬉しかったみたいよ?」とキサに教えてもらい、それならよかったと一安心。


「え。ツバサくん、ビキニ諦めてなかったんですか?」

「そりゃ着られるもんなら着たいわよ。でも気色悪いとまで言われたら、流石のアタシでも傷付くし」

「ごめん。菊ちゃんにはよく言っておきます」


 しょんぼりする女子二人に、ツバサはおかしそうにふっと笑った。


「そんなに心配しなくても、最初からビキニなんて着ないわよ」


 初めから、男物の水着を着た上からショーパンやTシャツ、パーカーを羽織っておくつもりだったそう。「いつもと同じで安心した」と、キサは心底ほっとしていた。


「わたしはてっきり、普通に男姿で行くのかと」

「ごめんなさいね? アタシ、ベッドの上じゃないと男にはなれないのよー」

「そっか。流石にツバサくんも、寝る時までは女の子の恰好じゃないんですね」

「…………」

「あ、あれ?」

「翼、諦めな。あっちゃんにはなかなか伝わらないわよ」


 よくはわからなかったが、「しばらく話しかけないで」と言ったツバサは、少しだけ落ち込んでいるみたいだった。


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