悪役令嬢を期待されたので完璧にやり遂げます!
マリアンヌ(本人)が聞き耳を立てているとは露も思わず、令嬢たちによる教室内での会話は続いていた。

「ご覧になりました? 今日のランチタイム」
「もちろんですわ。殿下はまたあの男爵令嬢とご一緒でしたわね」
「ええ! あの女、ジャルダン殿下に腕を絡めてまるで婚約者気取りで。あの勝ち誇ったような顔が忘れられませんわ」

声の違いから、噂をしているのは三人の令嬢のようだ。
中には聞き覚えのある声も混じっている。

ふーん、今日もあのお二方は人目も憚らずに仲睦まじく過ごされたってわけね。
……自分の立場も考えずに困った方たちだこと。

第一王子のジャルダンが男爵令嬢のロザリーに入れあげていることは、学園に通う人間なら誰もが知っている。
『ロザリーこそが私の運命の相手なのだ』と、王子自らが吹聴しているのだからそれも当然のことだった。
しかも二人はところかまわず密着しては、大声で愛を叫びあっているのだ。
まるでマリアンヌへ当て付けるかのように……。

いやいや、愛って囁くものだと思っていたのだけど、あの方たちは舞台俳優でも目指しているのかしら?
元々私は殿下のことなんてちっとも好きではないし、すでにお父様が婚約破棄に向けて動き始めているというのに。

失恋の痛みなど全く感じないマリアンヌは、思わず遠い目をしていた。
婚約者の前でイチャイチャして見せることの意味もわからないし、彼らは一体何をしたいのだろうか。

ロザリーが運命の相手というならば、さっさと私と婚約解消をして、彼女と結ばれるように陛下に働きかければいいのに。
あ、もしかしてこちらから言い出すのを待っているとか?
まさか、公爵家側(うち)から婚約解消を願い出させることで、こちらに非があることにできると思っているのかしら?
……これだけ堂々と不貞を働いておいて、それはさすがに無理があると思うのだけど。

マリアンヌは、王子とロザリーのイチャつきの不毛さについて考えてみたが、無駄なことだとすぐに諦めた。
どう転ぼうと、マリアンヌの父によって二人の婚約が解消されるのは時間の問題なのだから。


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