超人気美男子に目を付けられた平凡女は平和な寮生活を求めて苦悩する
第23話 迷走する美男子と祈る美女
「おかしい…」
図書館でアンセムは首をひねっていた。
立食会から2週間が経った。
想像以上にテラスのことが大きな噂になっていたため、あれからテラスには積極的に関わらないようにしていた。
その代わり、図書館に足を運ぶ日が増えた。アンセムがここを良く利用していることを知る者は少なく、利用目的以外で騒ぎ立てるような者はカイが排除するから快適だったのだ。
落ち着いてテラスと話せる唯一の場所のようになっていた。
しかし、ここ10日間ほど、図書館でテラスの姿を見ていない。
「どうした?」
カイが話しかけてきた。
「最近テラスは来てますか?」
「ああ。着てるぞ。本を借りたらすぐ戻ってしまうけどな」
「そうですか。タイミングが合わないだけか…」
カイはテラスとミユウが何かを話をていたことを知っているが、あえてアンセムには伝えていない。
「なんだ?寂しいのか?」
カイがからかう。
「そうですね」
アンセムは軽く流した。
「こんにちは。カイさん、アンセムさん」
そこへ、ナミルがやってきた。
テラスとは反対に、最近やけにナミルと顔を合わせる機会が多い。
「カイさん、本の返却にきました」
そう言って2冊の本をカウンターに置くナミル。カイは本を受け取った。
「これでアンセムさんが推薦してくれた本、全部読み終えました」
ナミルはアンセムを見上げてニッコリ笑った。
「ずいぶん早いな」
「はい。とっても読みやすくって、わかりやすくって、スイスイ進んじゃいました」
「そうか、良かった。じゃぁ、オレはこれで」
「あの、ありがとうございました」
深々と頭を下げるナミル。
アンセムは手を振って図書館を後にした。
「あ~あ、そっけないな」
アンセムを見送ってからナミルは呟いた。
カイは聞こえない振りをしている。
「カイさん、なにか手伝えることありますか?」
くるりと振り向いて、カイの気をひこうとするナミル。
「あ~、初心者にお願いできる仕事はないなぁ」
適当に答えるカイ。あまりナミルに好感を持っていないのだ。
「カイさん、どうしたらアンセムさんと仲良くなれるんですか?」
目を合わせてくれないカイに、それでもナミルはしつこく話しかた。
「さぁね」
「アンセムさんって、カイさんにとっても気さくに話しかけますよね。どうしたらあんな風になれますか?」
「そういうこと、僕に聞いているようじゃダメだろうなぁ」
「教えてください」
「ダメ」
カイはつれない。
「カイさんって意地悪ですよね」
プッと頬を膨らますナミル。
「ああ。寮生いじめるのが趣味だからな」
「そうやって、アンセムさんもいじめるんですか?」
カイは答えなかった。黙々と手を動かす。カイも暇ではないのだ。
ナミルはふぅ、と息を吐いた。
「本でも探してこよっと」
そして本棚の方へ向かった。
-----------------------
一方、アンセムはテラスの部屋へ向かっていた。
カイに「寂しいのか?」と問われ、無性に会いたくなったのだ。
寂しいか?と聞かれたら即肯定はできない。ただ、テラスに会わない毎日は、何か物足りない。
これは前回も感じたことだった。
とはいえ、テラスに迷惑をかけるわけにもいかない。
部屋まで行って、周囲に人がいなければ尋ねてみようと考えていた。
そして、ラッキーなことに、テラスの部屋周辺には誰もいなかった。
11時という中途半端な時間も関係しているかもしれない。
トントン。
アンセムはテラスの部屋の戸をノックする。いるだろうか?
「はい」
ガチャっと戸が開き、テラスが顔を出した。
「あ!」
驚くテラス。
「こんにちは」
自然と笑顔になるアンセム。
「なに?」
テラスは短く聞く。どことなく挙動不審に見えた。
「いや、特に用はないんだ。最近顔見てないから、遊びにきてみただけだよ。
誰かに見られてまた迷惑かけるといけないから、とりあえず、部屋入れてくれないか?」
「…ダメ」
「忙しい?」
「………うん」
「そうか」
ガッカリしてしまうアンセム。
「ごめんね」
そしてパタリと戸は閉められた。
アンセムはとりあえずテラスの部屋から離れる。なんだか面白くない。
自分が思っている以上に落胆しているのかもしれない。
歩いていると、女の子たちから声をかけられる。笑顔で対応するが、なぜだか無性に面倒臭かった。
女の子たちをかわしつつ、アンセムは部屋へ戻り、ベッドに横になった。
(オレはなんで今こんなに不機嫌なんだ?)
自分の中のムシャクシャした感情を整理できずにいた。
しばらくして、戸がノックされたが、面倒で無視をした。
すると、ガチャっとカギが刺さる音がする。
体を起こすと、ミユウが戸を開けて入ってくるところだった。
「あ、いたんだ…」
「ミュウか」
「寝てたの?」
「ああ」
起きていたが、面倒だから適当に返事をするアンセム。
「じゃぁ帰る?」
「…いや、いいよ」
本当は1人でいたかったが、あまり無下にするのも気が引ける。
ミユウはふわふわと歩いて、ベッドに座った。そして、アンセムを見つめる。
「もう少ししたら、お昼食べに行こうか」
アンセムが言った。
「うん」
頷くミユウ。
「なんか、あった?」
そしてアンセムに聞く。
「どうして?」
「だって、なんだか機嫌悪そう」
「そうかな?」
誤魔化すアンセムだが、笑顔に苦みが出てしまう。
ミユウはアンセムにふわりと抱きついた。アンセムは何も言わず受け入れて、ミユウの腰に手を回す。
そのままミユウは動かなかった。
不思議に思い、アンセムはミユウの顔を見る。
「キスしよ」
潤んだ瞳のミユウに誘われ、アンセムは唇を重ねた。
最初は降れるだけのキスが、徐々に深くなっていく。
アンセムはちゅっと唇を吸ったあと、舌を絡ませた。
体が熱くなるミユウ。久しぶりのキスで、嬉しくて心が震えるようだった。
しかし、このまま最後までと思っていのに、アンセムは唐突に体を離した。
「どうしたの……?」
「ごめん」
なぜか謝られてしまい、ミユウは怖くなる。
「どうしたの?アンセム」
ミユウはアンセムの顔を覗き込む。
「どうして謝るの?わからない」
キスして謝られるなんて最低だ。
「なんでそんな恐い顔してるの?」
そっとアンセムの顔に触れる。
「いや…、自分に嫌気がさしてさ…。ミユウのせいじゃないよ」
じゃぁ、誰のせい?
その言葉をミユウは飲み込んだ。
なぜアンセムがこんなに苦しそうにしているのかわからない。
もしかしたら、テラスのせい?彼女と会えないから?
だとしたら、自分がアンセムを苦しめていることになる。
テラスにアンセムから離れてほしいと頼んだのは自分だ。
それでも、テラスが遠くなれば、きっと自分に戻ってきてくれると信じて待つしかない。
辛くて不安に押しつぶされそうだけど。
「ねぇ…しよ」
ミユウはアンセムに優しくキスをする。
アンセムは戸惑った。正直やりたい気持ちは強かった。
「ごめん…今日はごめん」
しかし、今の気持ちのままミユウを抱くわけにはいかなかった。
「うん…わかった」
ミユウはベッドから降りて、アンセムの部屋を出て行った。
部屋に戻ると、我慢していた涙が溢れてきた。
こんなにアンセムが好きなのに、彼の目は自分を向いていない。
ここ数日のアンセムを思い出すミユウ。
いつも一緒にいたけど、アンセムはどこか心ここにあらずだった。
日に日にイライラしていくようにも見えた。
アンセムはきっともう既にテラスのことを好きなのだ。
そんなことを思う。
幸いなのは、アンセムが自分の気持ちに気付いていないこと。
このまま、気づかないまま、どうか2人の距離が自然に離れてしまいますように。
ミユウはそう祈るしかなかった。
図書館でアンセムは首をひねっていた。
立食会から2週間が経った。
想像以上にテラスのことが大きな噂になっていたため、あれからテラスには積極的に関わらないようにしていた。
その代わり、図書館に足を運ぶ日が増えた。アンセムがここを良く利用していることを知る者は少なく、利用目的以外で騒ぎ立てるような者はカイが排除するから快適だったのだ。
落ち着いてテラスと話せる唯一の場所のようになっていた。
しかし、ここ10日間ほど、図書館でテラスの姿を見ていない。
「どうした?」
カイが話しかけてきた。
「最近テラスは来てますか?」
「ああ。着てるぞ。本を借りたらすぐ戻ってしまうけどな」
「そうですか。タイミングが合わないだけか…」
カイはテラスとミユウが何かを話をていたことを知っているが、あえてアンセムには伝えていない。
「なんだ?寂しいのか?」
カイがからかう。
「そうですね」
アンセムは軽く流した。
「こんにちは。カイさん、アンセムさん」
そこへ、ナミルがやってきた。
テラスとは反対に、最近やけにナミルと顔を合わせる機会が多い。
「カイさん、本の返却にきました」
そう言って2冊の本をカウンターに置くナミル。カイは本を受け取った。
「これでアンセムさんが推薦してくれた本、全部読み終えました」
ナミルはアンセムを見上げてニッコリ笑った。
「ずいぶん早いな」
「はい。とっても読みやすくって、わかりやすくって、スイスイ進んじゃいました」
「そうか、良かった。じゃぁ、オレはこれで」
「あの、ありがとうございました」
深々と頭を下げるナミル。
アンセムは手を振って図書館を後にした。
「あ~あ、そっけないな」
アンセムを見送ってからナミルは呟いた。
カイは聞こえない振りをしている。
「カイさん、なにか手伝えることありますか?」
くるりと振り向いて、カイの気をひこうとするナミル。
「あ~、初心者にお願いできる仕事はないなぁ」
適当に答えるカイ。あまりナミルに好感を持っていないのだ。
「カイさん、どうしたらアンセムさんと仲良くなれるんですか?」
目を合わせてくれないカイに、それでもナミルはしつこく話しかた。
「さぁね」
「アンセムさんって、カイさんにとっても気さくに話しかけますよね。どうしたらあんな風になれますか?」
「そういうこと、僕に聞いているようじゃダメだろうなぁ」
「教えてください」
「ダメ」
カイはつれない。
「カイさんって意地悪ですよね」
プッと頬を膨らますナミル。
「ああ。寮生いじめるのが趣味だからな」
「そうやって、アンセムさんもいじめるんですか?」
カイは答えなかった。黙々と手を動かす。カイも暇ではないのだ。
ナミルはふぅ、と息を吐いた。
「本でも探してこよっと」
そして本棚の方へ向かった。
-----------------------
一方、アンセムはテラスの部屋へ向かっていた。
カイに「寂しいのか?」と問われ、無性に会いたくなったのだ。
寂しいか?と聞かれたら即肯定はできない。ただ、テラスに会わない毎日は、何か物足りない。
これは前回も感じたことだった。
とはいえ、テラスに迷惑をかけるわけにもいかない。
部屋まで行って、周囲に人がいなければ尋ねてみようと考えていた。
そして、ラッキーなことに、テラスの部屋周辺には誰もいなかった。
11時という中途半端な時間も関係しているかもしれない。
トントン。
アンセムはテラスの部屋の戸をノックする。いるだろうか?
「はい」
ガチャっと戸が開き、テラスが顔を出した。
「あ!」
驚くテラス。
「こんにちは」
自然と笑顔になるアンセム。
「なに?」
テラスは短く聞く。どことなく挙動不審に見えた。
「いや、特に用はないんだ。最近顔見てないから、遊びにきてみただけだよ。
誰かに見られてまた迷惑かけるといけないから、とりあえず、部屋入れてくれないか?」
「…ダメ」
「忙しい?」
「………うん」
「そうか」
ガッカリしてしまうアンセム。
「ごめんね」
そしてパタリと戸は閉められた。
アンセムはとりあえずテラスの部屋から離れる。なんだか面白くない。
自分が思っている以上に落胆しているのかもしれない。
歩いていると、女の子たちから声をかけられる。笑顔で対応するが、なぜだか無性に面倒臭かった。
女の子たちをかわしつつ、アンセムは部屋へ戻り、ベッドに横になった。
(オレはなんで今こんなに不機嫌なんだ?)
自分の中のムシャクシャした感情を整理できずにいた。
しばらくして、戸がノックされたが、面倒で無視をした。
すると、ガチャっとカギが刺さる音がする。
体を起こすと、ミユウが戸を開けて入ってくるところだった。
「あ、いたんだ…」
「ミュウか」
「寝てたの?」
「ああ」
起きていたが、面倒だから適当に返事をするアンセム。
「じゃぁ帰る?」
「…いや、いいよ」
本当は1人でいたかったが、あまり無下にするのも気が引ける。
ミユウはふわふわと歩いて、ベッドに座った。そして、アンセムを見つめる。
「もう少ししたら、お昼食べに行こうか」
アンセムが言った。
「うん」
頷くミユウ。
「なんか、あった?」
そしてアンセムに聞く。
「どうして?」
「だって、なんだか機嫌悪そう」
「そうかな?」
誤魔化すアンセムだが、笑顔に苦みが出てしまう。
ミユウはアンセムにふわりと抱きついた。アンセムは何も言わず受け入れて、ミユウの腰に手を回す。
そのままミユウは動かなかった。
不思議に思い、アンセムはミユウの顔を見る。
「キスしよ」
潤んだ瞳のミユウに誘われ、アンセムは唇を重ねた。
最初は降れるだけのキスが、徐々に深くなっていく。
アンセムはちゅっと唇を吸ったあと、舌を絡ませた。
体が熱くなるミユウ。久しぶりのキスで、嬉しくて心が震えるようだった。
しかし、このまま最後までと思っていのに、アンセムは唐突に体を離した。
「どうしたの……?」
「ごめん」
なぜか謝られてしまい、ミユウは怖くなる。
「どうしたの?アンセム」
ミユウはアンセムの顔を覗き込む。
「どうして謝るの?わからない」
キスして謝られるなんて最低だ。
「なんでそんな恐い顔してるの?」
そっとアンセムの顔に触れる。
「いや…、自分に嫌気がさしてさ…。ミユウのせいじゃないよ」
じゃぁ、誰のせい?
その言葉をミユウは飲み込んだ。
なぜアンセムがこんなに苦しそうにしているのかわからない。
もしかしたら、テラスのせい?彼女と会えないから?
だとしたら、自分がアンセムを苦しめていることになる。
テラスにアンセムから離れてほしいと頼んだのは自分だ。
それでも、テラスが遠くなれば、きっと自分に戻ってきてくれると信じて待つしかない。
辛くて不安に押しつぶされそうだけど。
「ねぇ…しよ」
ミユウはアンセムに優しくキスをする。
アンセムは戸惑った。正直やりたい気持ちは強かった。
「ごめん…今日はごめん」
しかし、今の気持ちのままミユウを抱くわけにはいかなかった。
「うん…わかった」
ミユウはベッドから降りて、アンセムの部屋を出て行った。
部屋に戻ると、我慢していた涙が溢れてきた。
こんなにアンセムが好きなのに、彼の目は自分を向いていない。
ここ数日のアンセムを思い出すミユウ。
いつも一緒にいたけど、アンセムはどこか心ここにあらずだった。
日に日にイライラしていくようにも見えた。
アンセムはきっともう既にテラスのことを好きなのだ。
そんなことを思う。
幸いなのは、アンセムが自分の気持ちに気付いていないこと。
このまま、気づかないまま、どうか2人の距離が自然に離れてしまいますように。
ミユウはそう祈るしかなかった。