すべてはあの花のために③

 紫苑は座りかけた体を起こし、葵の方へ歩き出した――その時。スパンッと部屋の襖が開く。


「親父。今帰った!」


 マサキが塞いでいたはずの戸を勢いよく開いて現れたのは、息子のカナデと生徒会メンバー。


「おい親父。アオイちゃんに手出すんじゃねえ」

「おーカナ、お帰り。よう帰ってきたなー」


 入り口でマサキがそんなことを言う。
 そして彼らの後から、マサキ側の人たちが入ってきた。


「マサキさんすんません。そんなに時間稼げんかったっす」

「いやいや十分や。寧ろこれ以上稼いどったら、逆にお前らぶん殴っとったわ」


 こちらでもそんな話をしているのだが、カナデは父から決して鋭い目を離さなかった。


「カナデ、お帰り」

「アオイちゃんから離れろ」


 怒り剥き出しの彼に、シオンは一瞬目を見開く。


「(……どうして、こんな得体も知らないような奴がいいんだ)」


 彼の眉が、少しだけ寄った気がした。


「俺からはまだ近寄っていないよ。この女の方が来ただけだ。そいつらを倒してね?」


 彼がそう言うと、みんなは目を見開いて葵を見る。その目からは驚愕が読み取れる。


「っ、そんなわけないだろ! とにかくアオイちゃんから離れ――」

「カナデくん」


 カナデの言葉に、葵が覆い被さって話し出す。


「君のせいでこのままだとわたし、あと10分弱で殺されるんだけど。ちょっと黙っててくれるかな」

「――! ……アオイちゃん、どういうこと」


 驚いたカナデはすぐに切り舞えて、今度は葵を睨みつける。


「そのままの意味だ。詳しくはマサキさんにでも聞けば? ああそうだ。みんなも、怪我したくなかったらわたしたちから離れておくことだ」


 葵はそう言って向き直る。


「さて。どうしますか? ここは特別に、あなたの得意なもので勝負といきましょうか」


 そんなことを言い出す葵の気迫に、みんなは動こうとしても動くことなんかできなかった。


「……そうか。だったら――」


 ただ一人、目の前の彼だけはそう言って、自分の得意なもので葵に勝負を挑む…………いや。

 葵を、殺す――――。


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