すべてはあの花のために③

 葵は自分で言って、何言ってるんだと、改めて恥ずかしくなった。


『流石に、そこまでいくと困りますね』

「そうですよね。やっぱり……」


 葵が落ち込むと、『いえいえ。違いますよ?』と声が聞こえたあと。


『私があなたに好いてもらっていると勘違いしそうで』

「……!」


 葵は、この気持ちが人に恋をすること、人を好きになることなのかなと、思っていると。


『でも、それではダメなんです』

「……え」


 きちんと気づく前に、その恋の芽は、摘まれてしまった。


『今の私では、ダメなのです』

「……かいとう。さん……」

『この、仮の姿では……』


 葵の切なげな声に、彼もとても苦しそうだ。


『……っ、いいですか。あおいさん』

「――!」


 ――ただ、名前を呼ばれただけなのに、葵の体温は急上昇する。


『必ずあなたを、幸せな道へ導きます。不安ならいつでも連絡してください。私も、好きな時に掛けさせていただきます。そうして変わった時、向き合ってください。私は、いつでもあなたの傍にいます』

「はいっ。ストーカーさんっ」

『それはちょっと遠慮したいですが。きっと変えることができたなら、今の私は消えるでしょう』

「えっ」


 彼も、葵と一緒で、時間がないのかと思った。でも。


『仮の私がですよ。私はずっと、あなたの傍にいますから』

「……はい」


 葵からは、安堵の吐息が漏れる。


『そうなった時、あなたが私を選んでくれることを、願ってます』

「……っ、はい」


 葵はスマホを握り締めながら、必死に声を紡ぐ。


 ――――まだ、切らないで。
 ずっと、聞いていたいのに。


『……それではまた、あおいさん』

「……っ。さよう、なら。怪盗、さん……っ」


 葵は切らなかった。
 それでも、耳から離した画面には〈通話終了〉の文字が出ていた。


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