すべてはあの花のために③

「今朝、ぱっと目が覚めちゃったのよね~」


 驚きのあまり、病室だというのにみんなして大声で叫んでしまった。
「みんな相変わらず元気がいいのね~」と、先生は本当に嬉しそうにみんなのことを見ていた。


「とっても良い夢を見てたの。温かくって、ずっとそこにいたいような。……でも、誰かはわからなかったけど、『ダメですよ』って言われたの。『もうすぐ待ち人が来ますから、起きてください』って。そして目が覚めたら病室だったわけ。もうビックリ!」


 体を大きく使って表現する彼女。その痛々しいほどの包帯の数は、起きられたことが奇跡だと物語っていた。


「それで、お昼過ぎに圭撫くんのお父様がお見えになったのよ~」


「ですよねー」「そうですねー」と、やっぱり仲良さげな二人。随分と打ち解けていらっしゃるようだ。


「……先生。俺、先生に謝らないとと思ってきたんだ」


 カナデがそう言うと、みんなが一斉に背筋を伸ばす。しかし先生は眉間に皺を寄せ唇を尖らせ、ちょっと怒っているような顔に。


「(そうですよね。先生は、謝って欲しいわけじゃないですもんね)」


 葵は、同じく頷いていたシオンの傍で、そっとみんなを見守ることに。
 謝ろうとしていたカナデは、先生の近くまで歩みを進めた。すると、ゆっくりと彼の手は先生の真っ白な手によって包まれる。


「圭撫くん、会えて嬉しいわ」

「――! ……ッ」


 先生はそう言って、みんなにも手招きする。


「みんなからはもう聞いた?」

「はい。昨日」


 カナデがそう言うと、「きのう⁉︎」と驚いてた。


「みんな、ずっと黙ってたの?」

「先生、これには事情があるんです」


 そう言ってアキラが代表して、カナデのことを思ってしたことを先生に伝えた。


「もうっ。そうだとしても遅すぎでしょう。何年経ったと思ってるの。カナデくんも、ずっと引き摺りすぎ!」


 先生がそう言うと、みんなは小さくなってしまった。


「(それでも、なんだか怒られてるのが嬉しそう)」


 葵はシオンと目を合わせた。彼もどうやら同じようなことを思っているようで、二人して小さく笑っていた。


「圭撫くん、私はあなたのことがずっと心配だったの。担任だもの。心配するのは当然でしょう?」

「せんせい……」


 先生は、カナデの手をぎゅっと握ってやさしく笑った。


「あなたが今も元気で先生は嬉しいわ。柊くんも。……あなたたちみんな元気で無事だったことが、私にとっては一番嬉しいことだから」


 そう言うと、みんなは涙を流したり目に溜めたり泣きそうになっていたり。
 とにかく本当によかったなと、心からそう思った。


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