すべてはあの花のために③
葵の笑顔にアカネはちょっと拗ねてしまった。その後とぼとぼとソファーの方へ歩いて行ったけれど、「ココアちょーだい」と座る頃には、機嫌はすっかり直っていた。
その言葉に笑顔で頷いて、葵は鼻歌を歌いながら飲み物を準備していた。
「あ。そういえばアカネくん。さっき誰に連絡してたの?」
いつの間に準備したのだろうか、スクリーンを下ろしてアニメを見る体勢になっていたアカネ。
「きくチャン先生に、〈午前中おれらは休みまーす〉って言ったんだあ」
「おっと。それは完全なるサボりというやつですな」
葵は温かいココアを彼に渡す。
「その通り! でもこれは、一時休戦というやつです!」
「違いますアカネくん。戦場に行く前の腹拵え的なやつです」
「そっかそっかあ~」とアカネは、録り溜めていたのであろうアニメを見始めた。
「ちなみにですねえ、きくチャン先生には1-Sの担任の先生に、こっそり欠席者の話を振ってくれと話しておきましたあ~」
「おっ! そこでオウリくんが休みかどうかを聞くという作戦ですね!」
葵はコーヒーに口をつける。
「その通り! きくチャン先生に誰が休みだったかを聞いたら教えてくれと連絡しておきましたあ~」
「……それ、下手したら今日の放課後とかに連絡来そうじゃない?」
「はっ!!」
彼もそう思ったのか、急いで〈午前中に連絡すべしっ!〉と追加で送っていた。
そしてスクリーンから流れてきたのは、葵が録り逃したと思っていたお○松〇んだったので、楽しくなってついつい齧り付くように見ていたら。
「――はっ! 一本丸々見てしまった!」
あっという間に30分経過。
「アカネくんごめん! わたしったら、がっつり見ちゃっ……て?」
彼の方を振り向いたら、何故か彼は、葵の方を嬉しそうに見つめていた。
「ど、どうしたんだい?」
その視線に、思わず恥ずかしくなる。
「……あおいチャン、すっご~い可愛かった!」
「……!?」
反応に困った葵は、取り敢えず握り締めていたコップで顔を隠す。
「わ、わたしなんか可愛くないし。よっぽどハ〇坊とト〇子ちゃんと十〇松の方が可愛――」
「あおいチャンの目、すごいキラキラしてた」
葵に被さるように、彼がそう言ってくる。
「き、きらきら?」
「そうキラキラ! すごく楽しそうだったよ! おれは、そんなあおいチャンが見られてすごく嬉しかった!」
言葉通りの表情に、どう返したものかと悩んでいると「あおいチャンの好きなもの、はっけーん!」と、今度は違うアニメを流し始める。
ちょっとちょっと! 今度はセーラー服着た美少女戦士のリメイクバージョンじゃない!
そして再び葵はスクリーンに釘付けになってしまい、本題を忘れアニメに集中してしまった。