姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
 この手は、大切なものを守るために戦う男の人の手なのだ。
 おそるおそる握ってみたら彼がピクンと小さく震えた。その後で、さっきよりも少し力を込めてキュッと握られた。
 心臓が痛いくらいにドキドキしていた。触れ合った手と手から、速い鼓動がバレないように祈った。
「今日も賑わっているな」
 私たちは手と手を取って、市場の入口を潜る。
「ええ、すごい活気ね」
 市場は多くの人で混み合っていた。人波にのって歩きだす。
 ふと、ひとりで来た時よりも歩きやすいことに気づく。注意して見ていると、ジンガルドが巧みに人を避けて誘導してくれているのが分かった。そしておそらく、歩みの速度も私に合わせてくれている。
 ジンガルドは背が高くて、彼の肩くらい私の目線がくる。当然、コンパスの長さも違うのに、足並みが揃っているのはそういうことだ。
 自分がすごく大切にされているのが分かって、戸惑いとそれを上回る喜びに胸が熱くなった。
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