姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
 そう決意して、ざぶざぶと川から上がる。膝辺りまでぐっしょりと濡れたドレスが疲れた体にやけに重たい。濡れたベールも顔まわりにヒタヒタと貼りついてきて不快だった。
 一歩踏み出すたびに、足もとに水たまりができる。しかし、私にタオルが差し出されることはない。
 まるで濡れネズミのようだわ。自分自身の状況を自嘲しつつ、私は水を滴らせながら嘲笑う騎士たちの横をすり抜け、荷駄を積んだ馬車へと向かう。
「で、殿下!? なにを──」
 荷馬車を管理するのは、クラリッサとマリッサの息がかかっていない下っ端の騎士だった。おろおろするばかりの騎士を押しやり、扉の付近でとりあえず目についた荷箱に手を突っ込んだ。
 掴み上げたのは、真っ赤に色づく手のひら大の林檎だった。
 躊躇なく、歯を立てた。
 シャクッという小気味いい音の後、瑞々しい果汁が口の中にあふれる。
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