姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?

　奇妙な静寂が支配する中、私の咀嚼音だけが周囲に響く。追従する騎士たち全員が、唖然としたように私を見つめてた。
　いつも私を嘲笑しているトーマスもなぜか今は笑みを引っ込め、まるで奇怪なものでも前にしたかのように顔を歪めていた。
　夢中で一個を食べきると手の甲で口まわりをグイッと拭い、芯だけになったそれを通ざまにトーマスに放った。
　どんくさい騎士は油断していたのか、林檎の芯すら避けることができなかったのか、いずれにせよお綺麗な顔面に見事に命中した。
　目を丸くして呆けたように立ち尽くすトーマスに、私はいつものようにへらっと笑い、スキップで自分の馬車へと滑り込んだ。
　途中、少し離れた場所で旅装のローブを纏った一行がこちらを見ているような気がしたけれど、たまたまそう感じただけかもしれない。