姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
 俺が勝手に早合点しただけで、本当は王女だった……? 捜し続け、会いたいと願った人が、俺のもとに嫁いできていた。そんな嘘のような話が、本当にあり得るのか?
「まさかはこちらの台詞ですわ。その節はどうも。お忍びで街に下り、女性たちとの恋愛遊戯を楽しむ。陛下はとてもよい趣味をお持ちですのね」
 ……恋愛遊戯? 動揺しきりの俺に彼女が放った台詞。
 今は思考の糸が複雑に絡まって、まともに物を考えるのが難しい。しかし、一拍の間をおいて彼女の認識に大きな齟齬があることに気づく。
 居ても立ってもいられずに一歩分の距離を詰め、彼女の細い肩を両手で掴んで呼びかける。
「っ、聞いてくれ、フィアンナ! ……いや、アンナ!」
「え?」
 アンナと呼びかけた瞬間、彼女がガバッと俺を仰ぎ見た。
 当惑に揺れるその瞳を真っ直ぐに見返す。しばし、俺と彼女の視線が絡んだ──。
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