姉たちに虐められてきたけど「能無しのフリ」はもう終わり。捨てられ先では野獣皇帝の寵愛が待っていて!?
 庭師小屋で貴族の少年に出会った。祖父母のように慕った夫妻がいなくなった寂しさもあり、つい少年の無駄話に乗っかって、別れ際に聞かれるがまま名乗ったのだ。ひょろひょろとした少年は声変わりもまだの声で『アンナ』と、私の名前を繰り返していたっけ。
 私が必死にかつての記憶を辿っていると、ジンガルドが真摯な声音で告げる。
「俺は誓って女遊びを趣味になどしていない。俺が声をかけたのは、君だからだ」
 彼は真剣そのものの様子でさらに続ける。
「十二年前、サドニア神聖王国の離宮で君に会った。ずっと君と会いたくて、もっと話がしたくて、偶然帝都で君を見たら声をかけずにはいられなかった」
 バラバラだったパズルのピースが嵌まっていく。合致する状況が、あの少年の正体を自ずと知らせる。
「……あなた、チョコレートをくれた思春期のお坊ちゃま?」
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