すべてはあの花のために④
その後、混んでいた割にはすぐにランチが来たので、雑談をしながら食べることに。話の内容は主に文化祭について。
「あーあ。葵ちゃんの衣装見たかったなー」
口を尖らせながらランチプレートを突く。隣の彼女から、くすりと笑みがこぼれた。
「ちょっとお行儀悪いんですけど……はい、送信」
「え?」
するとスマホから通知が。誰から送られてきたのは明白なので、一度だけ断りを入れてスマホを開く。そして画面を見たまま目を見開いて固まった。
「みんなで衣装着て撮ったんです。可愛いでしょう。特にオウリくんがお気に入りで――」
「めっっっちゃ可愛い過ぎなんですけどーッ!!」
立ち上がった勢いで叫び声を上げる。それも存分に。
すぐさま店員がやって来て怒られたけれど、それどころではない。
「こ、これ。もらっていいの?」
「え? はい。それでよければ」
照れ混じりに頷く葵。落ち着きを取り戻したトーマは、小さくガッツポーズをした。
「俺さ、今回は絶対葵ちゃんとの写真を撮ろうと決めてたんだ。だって、最後会ったのって秋蘭の家に行った時でしょ? 前巻は電話だけだったし」
「そ、相当根に持っていらっしゃるようで……」
「その時言ったでしょ? 俺は、絶対忘れないよって。だから、これから俺が死ぬまで覚えておくのに、形に残しておきたいと思ったんだ。もちろん記憶には残ってるよ。俺が忘れるわけないでしょう?」
「ははっ。……はい。トーマさんなら忘れそうにないですね?」
帰ってきた笑顔に、驚いて一瞬目を見張った。
「(……葵ちゃん、ちょっと変わったね)」
「……? トーマさん?」
「ううん。……だから、会った時は絶対に写真撮ろうと思ってたんだよね」
「そうならそうと、最初から言ってくれてたら、わたしもちゃんと準備して撮ったのに。いきなりですもん。絶対変な顔ですよっ」
照れ混じりの悔しそうな顔に、トーマは「ごめんごめん」と笑って返した。
そして、視界の端で先程撮った写真を眺める。以前の葵であれば、形が残るものを避けていたはず。だから、勝負は出会い頭だと思っていたのだ。
「……じゃあ、こっちにいる時は、たくさん写真撮ってもいい?」
「それはもちろんいいですけど……トーマさん、本当に受験勉強は大丈夫なんですか?」
「心配してくれてありがとう。大丈夫だよ。模試A判定だから」
「流石。抜かりないですね……」と、苦笑を浮かべる葵に、トーマはほっと安堵の息を吐いていた。