すべてはあの花のために④
「実は俺、写真撮るの好きなんだ。普段もよく撮るんだ」
自分のスマホに入っている写真には、人や動物、風景など様々だが、特に人を撮ってるものが多かった。
「こ、この可愛い子猫の写真全部下さい!」
もちろん葵が好きなものも把握済み。いつまでもスマホを眺めていそうな彼女には、「ご飯食べ終わってからゆっくり見るといいよ」と一声掛けておいた。
「スマホの機能とかも、一番重視するのはカメラ機能だったりするんだ。家には一眼レフもあるんだけど、今日はお留守番」
「てっきりトーマさんの趣味特技は情報収集かと」
「それもあながち間違いじゃないけど……葵ちゃんにはこっちの方を推しておこうと思うよ。好感度アップのために」
「ということは、トーマさんの将来の夢は写真家さんなんですか? 大学もそっち方面へ?」
「え? 俺の将来の夢は葵ちゃんの旦那さんになることだけど」
直後何故か店から奇声が発生。何が起こったのかと葵を見てみれば、彼女はトーマを白い目で見ていた。
「……そういえばこの人、桁違いのイケメンだった。さっき怒られたの、嫉妬もあるよね絶対。というかいい迷惑なんですけど……」
「俺は本気だよ。これは冗談でも何でもないから」
すると今度は、店中の女子たちが「ぎゃあー!」と悲鳴を上げてバタバタと倒れた。隣の彼女は「これがイケメンビームか」と、なんか呟いていた。
「ま、葵ちゃんはどうせスルーするんだろうけどね。別にいいけどさ。もう慣れちゃったし」
旦那さんに対する返事に未だ無言を貫く葵へ、トーマは口を尖らせて大袈裟に拗ねてみる。
「……そっか。へへ」
以前までの葵であれば、申し訳なさそうな表情でいつも「冗談ばっかりっ!」と可愛く怒ってくるところだ。けれど、心底嬉しさを噛み締めるように小さく笑う彼女に、無意識に息を止めていた。
「そう言ってもらえて、すごく嬉しいです」
「え。結婚してくれるの?」
「それは違います」
「えー。期待したのにー」
軽口をたたくように返しても、動揺は隠せない。
「……トーマさん。お話ししないといけないことがあるんです」
「……何かな」
そんなトーマを待てないと、彼女の空気が瞬時に切り替わった。