すべてはあの花のために④

 通話を終えた葵は、スマホを握り締めて自分の部屋を飛び出そうとした。


「――……っ、シント! 放して!」

「ダメ。放さない」


 けれど、シントにがっちりとホールドされ、身動きが取れない。


「お願いだシント! 今行かないと、彼がまた暴走してしまうかもしれない! そうなる前に止めないとチカくんが……――ッ!」


 パシンと、軽く頬を叩かれる。


「悪いけど。ただでさえ消えそうなお前に、無理させるわけにはいかない」

「何言ってるの! わたしはもう、みんなのためなら無理するって決めて――」

「今何時か、わかってるの」


 時刻は2時前。
 もうすぐ、【草木も眠る丑三つ時】がやってくる時間だ。


「この時間帯だけは、流石に出させられない。……お願いだから寝て。お前のために言ってるんだよ」

「……っ、で、でも……」

「大丈夫。葵が行けない分、俺が行ってくるから」

「なっ、何言ってるの! それは駄目だ!」

「何言ってるのはこっちの台詞なんだけど」


 シントは大きくため息をついて、やさしく葵の手を引き椅子へと座らせる。


「葵。やることやって寝なさい。わかった」

「……わ、かった」

「アラーム、一番最短の4時に設定しておくから」

「え……?」

「それまでは俺が、……流石に家からは出られないけど、一応彼が行きそうな場所を調べておく。起きたら一緒に行こう。それでいい?」

「……うんっ。あり、がと」


 そうして葵は机につき、やるべき仕事を何とか2時半までに終わらせ眠りについた。

 シントは、葵が眠りにつくまでずっとそばにいてあげていた。


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