すべてはあの花のために④

 それから家に着いたと同時、葵のスマホが鳴った。


「え。……誰。こんな遅くに」


 怪訝そうなシントだが、葵は嫌な予感がしてならなかった。
 着信が長い。相手は……キサだ。

 少し気を落ち着かせて、葵は電話を取る。


「……もしもし? キサちゃん、どうかしたの?」


 尋ねる声に、返事はこない。
 ただどこかへ走っているようで、キサの息づかいだけがずっと聞こえていた。


「もしもし! キサちゃんどうしたの!」


 はあはあと。何かを探しているように。
 そしてどこか、泣き出しそうな息づかいで。


『はあ。……あ、あっ。ちゃんっ』

「キサちゃん! 何があったの!」


 キサは、あのままキクの車に乗せられて、彼と一緒に病院へ行ったはずだ。


「キサちゃん。お願いだから、落ち着いて話してくれっ」

『……あ、っちゃんっ。……チカがっ』

「――――!」



 ――チカが、どこにもいないのっ。


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