すべてはあの花のために④
「……もう、消えたね」
その頃葵は、自分の首や胸元を、何度見もしていた。
「……消えたはず、だよね?」
出立した日にシントにつけられたそれも、殆ど消えたのに。
「……な、なんで?」
何故か、つけられた覚えのないところに咲いていた赤い花。
「え? 本気でいつの話? そして誰? 何勝手につけてるの?」
全く記憶のない葵は、どうして今まで気がつかなかったんだろうと首を捻った。
「というか、新しいところもすでに薄いんですけど……」
付いていたのはまさかの胸。しかも下着のすぐ上。いや、少し隠れてるから、多分捲らないと付けられないはず。ちょっと、本気で誰よ。寝込み襲ったのは。
「もうここまで来たら、一種の心霊現象だよね。うん」
もう薄くなっているし、誰も見ないだろうと思って、隠すことはしなかったけれど。
さっとお風呂に入って髪も乾かさず、一応制服に着替えて自分の部屋へと戻る。学校へ行く支度がばっちり済んでいて、流石は有能執事と褒めちぎった。
頭が鳥の巣状態のシントに髪を乾かしてもらいながら、チカゼがいるであろう候補場所を聞く。
「多分ここだと思う」
「そ。それじゃあ行こう。……すぐで大丈夫?」
「うん。早く行ってあげよう。彼は今、ずっと独りだ」
シントも葵の言葉に大きく頷いて、二人は家を飛び出した。