すべてはあの花のために④
「……ねえ。ほんとにここにいるの」
「おっかしいな。多分いると思ったんだけど」
二人が来たのは海。
朝の冷たい潮風が、顔に刺さるように吹いてくる。
「……いなかったら次の場所に」
「ううん。多分いる。彼は、……ここにいるんだよ」
海沿いを歩き始める葵に、シントはため息をつく。
「俺はここから離れられないから、見つけたら教えて」
車のそばで立ち尽くすシントに頷いて、ただ海沿いを歩き続けた。
「……多分、ここにいるんだ」
きっと、キクとキサは、自分たちにとっての思い出の場所だと思ってるから、彼がここにいるとは思っていないだろう。
「わたしは、見捨てないって言ったんだ。見てるよって。……そう、言ったんだから」
自分が知ってる場所で、独りになれる場所で、彼は待っていてくれていると、葵はただ信じた。
そうして15分程歩くと、ブロック塀に背を預け、砂浜に小さくなって座り込んでいる彼を見つける。
「(よかった。厚めのストール、持ってきておいて)」
毛布ほどのそれを握り締め、ざくざくと音を立てて砂浜を歩いて行った。