すべてはあの花のために④
「っ、はあー! ひっさしぶりだあー!」
辿り着いたのは、地区一帯が見える場所。
北の桜も、西の藤も、東のつつじも。南の百合は、市の名前でもある花山という大きな山に阻まれて少ししか見えないけれど、それでも十分。全体が見える小高い丘。
「やっぱり綺麗……!」
そして、その場所を少し上がったところにあるのは、いつの季節に来ても花を咲かせている広大な花畑。朝の花には、露が少しだけ付いていた。
町全体も、朝日に照らされてとても空気が澄んでいたので、まるでキラキラと輝いているように見える。
「……きれい。だな……」
ぼそりと呟く葵の言葉は、さっと朝の空気に溶けていく。
「ねえ、あなたはしってる? こんな素敵な物語。ひとつの花のお話を……」
どうしても、歌いたくなってしまう。この歌を。
「――――……でもね? いろんな花が音を奏でるの。今日も綺麗ね。とてもいい香りね。でも花は何も思わないの。代わりに言葉を奏でるわ。わたしに近寄っちゃだめなのよ。だって、わたしは汚れてる。みんなを汚したくないんだもの」
「また、そんな悲しい歌を歌っているんだね」
葵は、声がした方へと振り返る。
「……あ、なた、は……」
「言ったでしょう? 俺の勘は当たるんだ。どうみょうじさん?」
ミスターコンで優勝した彼が、そこに立っていた。