すべてはあの花のために④
そして一分も経たずして、視界を塞いでいる方の手が重くなる。
「(……寝た、か)」
起こさないようゆっくりと体勢を変えて、胡座を掻いた上で彼女を横抱きにする。
きっと、絶対に寝まいとしていたのだろう。それか、震えを抑え込もうとしていたのだろうか。葵はカナデの手をしっかり握ったまま、眠りに落ちた。爪の痕をつけるほどに。
「(どうして、限界まで起きていようと……寝ようとしなかったんだろう)」
すうすうと、寝息を立て小さく胸を上下しているだけでかわいい彼女のせいで、自分と一生懸命戦う羽目に。それ以前に、部屋中からひしひしと飛んでくる途轍もない嫉妬と殺気の視線に、下手なことはできないのだが。
「(はあ。先が思いやられるな……)」
ため息混じりに、カナデは頭を抱えた。
「(何。好きがわからないとか。初恋を済ませてないどころの話じゃない。付き合うとか、それ以前の問題事が山積み過ぎる)」
様子がおかしいことに気づいたのか、みんなの視線が変わったのがわかる。
そんなカナデは、葵が言った言葉を頭の中でぐるぐると考えていた。
「(家は嫌いなんだろう。でも、なんか話を聞いてもいまいちスッキリしないんだよな……)」
パズルのピースが埋まっていないような、そんな感覚に陥っている。ということはきっと、まだ隠していることがあるのだろう。
眠っている葵の顔を覗き込む。
その時のカナデの顔が悲しみに歪んでいて、みんなは眉を顰めた。
「(アオイちゃんのおかげなんだ。また俺が、家族のことを……人を、信じられるようになったのは)」
繋いでる方の手をぎゅっと握り、そのまま口元へ寄せて口付けを落とす。
「(絶対君に、好きを教えてあげるからね。――……覚悟してて)」
みんなの殺気は無視して、カナデももう少し眠ることにした。