婚約破棄されたので、契約母になります~子育て中の私は、策士な王子様に翻弄されっぱなしです~
「ディーター様、婚約破棄の件、承りました」
「なっ!」
「では、私から一つ、最後のお言葉を言わせていただきます」
「な、なんだっ!」
「あなた様は、不貞の子だからとルイト様にひどい仕打ちをしましたね。ご両親のいない日の食事ではルイト様の分を捨て、そしてお父上に叱られた腹いせとしてルイト様をぶって、大切にしていたおもちゃを燃やした」
「なっ! そんなことするはずないだろう!」

 講堂内はざわめくが、不思議なことにフローラの味方である者は少なく、彼女はおかしなことを言いだしたと噂を始めるものもいる。
 そんなことは気にせず、フローラはディーターを問い詰めていく。

「しかし、ご両親に私からこのことを進言しても、信じてもらえないでしょう。ですから、私がルイト様を引き取り、うちでお育ていたします!」

 その言葉に講堂にいた人々は皆、驚く。
 そして、ディーターは頬をひくひくとさせながら、フローラを指さして怒る。

「そんなことができるわけないだろう!」

 すると、フローラは一枚の書類をディーターに向けて見せた。

「この書類は『貴族の縁組み許可書』です。ディーター様ならご存じですね?」
「うぅ……」

 この国では貴族の縁組みについていくつかの決まりがある。
 今回のように国の調査で「家族の虐待や育児放棄」などがあった場合、その家の当主は厳しく罰せられると同時に、国で保護をすることになっている。

 ルイトが虐待を受けているということでキルステン公爵家に調査が入ったが、両親はもちろん否定した。
 しかし、彼らもルイトを厄介に思っており、国の育児保護を受けたいと言い出したのだ。
 そんな事情を聞き、いてもたってもいられなくなったフローラは、自分の家で育てたいと国に直談判したのだった。

「な、そんなことが許されるとでも……」
「見てください、この許可書は国王の署名付きです。本日をもって、ルイト様は私の子となりました。言いたいことはそれだけですので、幼い子どもを痛めつけるような方とは、私も一緒にやっていけません。では、ごきげんよう」

 彼女は長い金髪をさらりと流して後ろを向くと、待っていたルイトに声をかける。

「さあ、ルイト様、いきましょうか!」
「フローラとあそべる!?」
「ええ、いーっぱい遊びましょうね!」

 そうして、フローラは講堂を颯爽と去っていく。
 悔しそうな顔をするディーターと苦々しい表情を見せるジェシカは、フローラが出て行くのを見送ることしかできなかった。

 そんな婚約破棄騒動の一部始終を見ていたある人物は、ふっと笑った。

「フローラ・ハインツェ……君は勇ましい。そんな君に興味が出てきたよ」

 王家紋章を煌かせた彼は、立ち上がって銀色の長髪を靡かせて講堂を後にした──。
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