ことりは優しく癒される

「お前ほんと、不憫でしかたがないわ」

「……うるさい」


 ノリのいいBGMとガヤガヤと会話する雑音が聞こえる居酒屋個室の座敷で、テーブルに突っ伏して顔を上げず不機嫌な返事をした私、結城(ゆうき)琴莉(ことり)二十六歳。


 一時間前に解散した会社の同期会の飲みの席で、安達(あだち)から彼女の惚気話をさんざん聞かされ瀕死のダメージを食らったまま、フラフラの状態でやってきた二軒目。


 私の拗らせた片想いをただ一人知るもう一人の同期、羽村(はむら)一希(かずき)は壁に貼られたビール広告を呆れたように見つめながら、ポスターと同じジョッキを口にしていた。


「泣くなよ。泣いたら余計ブスになるぞ」

「ほんと、うるさい」


 慰める素振りもなく、やや揶揄い交じりにうっすら笑いを浮かべ、適当な言葉を言って楽しむのが羽村の趣味。


 羽村に変なところを見られてしまった日からやけに構ってくるのが面倒くさいと思いつつ、私の八つ当たりも余裕たっぷりに軽いノリで受け流すから、憎たらしくも気楽でついつい私も愚痴を溢してしまう。


「はぁ、やっぱりしんどい……」

「だったらお前も彼氏作って、安達に惚気話聞かせてやったらいいんだよ」

「適当なこと言わないで」


 伏せた顔を少し上げ、向かいに座る羽村を拗ねた顔で睨みつけた。
 羽村は海外ドラマの脇役のように軽く肩を上げて、じゃあ知らねぇよといいたげな仕草をする。


 他の人ならむかつく仕草も、無駄にイケメンな羽村がするとやけに様になっていてさらにムカついてくる。


「はぁ……」



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