ことりは優しく癒される
私が安達(あだち)を好きになったのは、三年前の同期会の飲みの席。
入社後のオリエンテーションで存在は知ってはいたけれど、顔を突き合わせてゆっくり話したことはなかった。
男女含めて八人ほどの同期仲間。
親睦を深めるため定期的に飲み会をしようと言った誰かの提案で、半年に一回開催されることになった。
その日の同期会で偶然隣に座った安達。黒縁眼鏡をかけて髪もすっきり整えられ、たれ目で優しく笑う雰囲気が弟のようで庇護欲をくすぐられるタイプだな、なんて初めは姉目線で見ていた。
ところが向かいに座る友人と話が弾んで盛り上がっている最中、無意識のうちに肘にグラスが当たり、倒れたお酒が隣に座っていた安達のスーツに零れてしまった。
「あっ! ごめんなさい!」
「大丈夫。結城さんこそかかってない?」
「私はぜんぜんっ。それより……」
スラックスには大きく染み込んだお酒と床に滴り落ちる水滴で大惨事。
急いで二人で廊下に出て、おしぼりや店員に借りたタオルで拭いたけれどすぐに乾くわけもなく、ひたすら謝った。
それなのに怒ることもなく彼は
「ちょうどこのスーツ洗おうと思ってたんだ。結城さんが濡れなくてよかったよ」
眼鏡越しに目を細めて優しい微笑みを浮かべ、自分のことを差し置いて私を気遣ってくれたのが嬉しくて、ドキドキして……。
それがきっかけで恋に落ちた。
それからは、ことあるごとに安達に話しかけてはお詫びと称して差し入れをしたり、優しさにつけ込んで飲みに誘った。
自分でも分かりやすいと思うほど、安達の目に映るために頑張った。
それなのに、安達にはいつのまにか好きな人が現れ、あろうことか付き合うことになったと嬉しそうに同期の皆んなの前で律儀に報告をしていた。
それを聞いた同期たちは彼を肴に盛り上がる。
私はひとりどん底へ……。
みんなが盛り上がる席で泣くに泣けず、お手洗いに立つふりをして廊下の隅で密かに泣いていたところへ、偶然通りかかった羽村に泣き顔を見られ安達への思いを気づかれてしまった。