すべてはあの花のために⑤
「か、カナデくん……?」
カナデが少しでも安心してくれるようににっこり笑ってそう言うと、カナデは返事も無しに葵の手を引っ張って歩き出す。コンパスが違いすぎて、何度もつんのめりそうになった。
そんなに遠くへ行ってしまったのかと思ったら、何故か後ろからみんなの声が。
「か、カナデくん? みんなを通り過ぎちゃったみたいなんだけど……」
「ちょっと待って」
一体どこまで行こうとしているのか。
そう思った途端、カナデは通路の脇道の壁に葵を引き摺り込んだ。
「か、かなでく」
「ごめん。ちょっと、このままで」
背骨が折れてしまいそうなほど強く。若干海老反りになりながら、カナデに抱き締められる。さっきの表情と何か関係があるのかと思ったら。
「……ダメだよ、あんな顔して笑ったら。今の俺はアオイちゃん食べちゃうよ? 知らない間にチカちゃんとオウリに食べられてさ。俺が何も思ってないと?」
「い、いやいや。無理矢理だったから。急だったから!」
「たとえそうだとしても。……俺だってアオイちゃんとキスしたいよ」
「いや、させないけど?」
ちょっと凄めば、いつも通り面白い反応を返してくれると、そう思っていた。
「……うん。ごめん。ただの八つ当たりなだけ」
「へ? 八つ当たり?」
その先を尋ねても、彼は乾いた声で笑うだけ。
「今すっごい落ち込んでるから、ちょっと充電させて」
「お、落ち込んでるの……?」
「落ち込んでるしすっごい悔しいし、自分が情けないからちょっとアオイちゃん補給します」
「か、カナデくんが情けないのは、今に始まったことでは……」
「なので、みんなが来るまで少々お待ちください」
「く、来るまで!?」
いやいや。ここ、通路の脇なだけだから。通る人にめっちゃ見られてるんですけど。
「……もしかして、わたしが二人にキスされたから?」
「今は放っておいてください」
「か、カナデくんは顔見られないからいいけど、わたし通る人たちと目が合う度に視線逸らされるんだよう……」
「はあ。……情けない」
「な、情けないって言ったのは冗談で……」
「知らない」
「……えっと。どうしたのカナデく」
「言いたくない」
「早かったね。そんなに自分のヘタレ加減を落ち込んでいるのかい?」
沈黙を返す彼に、葵は体が折れそうになりながらカナデの背中をポンと叩いてあげる。
「よくわかんないけど、好きがよくわからないわたしでも、大事にしてくれる人だと有り難いと言いますか。カナデくんの考えには、わたしも賛同したいと、言いたいんですけど。だ、だんだん力強くなってないですかあー……ッ?」
本当に背骨がぽっきり折れてしまいそうだった。
「アオイちゃんかわいい」
「ギブ! ギブギブ!」
「あ。ごめんごめん」
補給が完了したのか、カナデの肌はつるんっとして見えた。