すべてはあの花のために⑤
そうこうしているうちに、みんなが見つけてくれた。
「(よかった見られなくて。ギャーギャー叫びまくる人たちが勢揃いだから)」
これ以上人様の迷惑にならないようにと、葵はカナデの手を引く。
「ほらカナデくん。行くよ。心配、掛けたくないからさ?」
「アオイちゃん……」
そのままみんなのところへ戻ったおかげで、結局のところギャーギャー言われた。引き剥がされそうになったところで葵が「カナデくんと手繋ぐの!」と言ったらみんな撃沈していたけれど。
そう言われたカナデは嬉しそうに笑っていたけれど、やっぱりどこか落ち込んでいるようだった。
「……あ。あそこにカナデくんみたいなのがいる」
「え? 魚? どれ?」
館内を進んでいった葵が指差したのは、絶賛交尾中のザリガニさん。
「ちょっ、アオイちゃん?!」
「ははっ。カナデくん焦ってるー」
そんな光景を見る度に葵に、「あ! あそこにもカナデくんがいる」「あ! あそこにも!」と言われ続けたカナデは、端から見たら『この男の子、どれだけ彼女と……』なんて思われていたに違いない。
「あ、アオイちゃん? そういうのは言わないでもらえると助かるんだけど」
「落ち込んでるの?」
「そうだね。知らない人でも、俺の評価がどん底に下がったことには少なからずショックを受けています」
「でもさっきとは違う理由でしょう? さっきの落ち込んでたのは、もう大丈夫?」
「え。……落ち込んでる時ってさ、普通励ましたりとかするよね。なんで他のことで落ち込ませようとしてるのアオイちゃん。相まってどん底に落ちるとか考えなかったの」
「でもでも、さっきのことすっかり忘れてたでしょう?」
「……まあね」
「そりゃ人様にあんな視線を向けられようもんなら、それどころじゃなくなるでしょう」と、言いたげな視線を向けられるけれど。
「安っぽい言葉で励ましたくなかったんだ」
驚いたカナデを、葵はにこっと笑いながら見上げる。
「だって、どうしてカナデくんが落ち込んでるのかわからないんだもん。でも、話すつもりはないんだろうなと思って」
「……うん。これは、俺が勝手に落ち込んでるだけだし」
「そうそう。だから、大丈夫とか、元気出してとか、別に言わなくていいかと思ったんだ。その結果が、カナデくんをいじり倒すという結果に陥っちゃったけど」
「いや、いじるで済んでないから。取りようによってはいじめだから」
カナデは肩を落としていたが、どこか嬉しそうな顔だった。
「ありゃ。カナデくんがMに目覚めてしまった」
「好きな子には何されても嬉しいんですー」
「え。じゃあ次何してやろう……」
「え。ちょ、何しようとしてるの? 物理的な傷と、心に傷をつけるようなことだけはやめてよっ……!?」
「チッ」
「する気満々だったんかい」
そんなことを話ながら、二人は楽しそうにどんどん奥に進んでいった。背中に、殺気をひしひしと感じながら。