すべてはあの花のために⑤
夕日が、地平線へと飲み込まれていく。
「……綺麗だね」
「アオイちゃんの方が綺麗だけどね」
「キザだね」
「アオイちゃんにだけだけどね」
「嘘こけい。知ってるんだぞ? 知らないとこでよくわからん女の人とイチャこいてるの」
「い、今はしてないっ!」
「うん知ってる。情報、もう集めなくていいんだもん」
「……それもこれも、アオイちゃんのおかげだね」
葵はカナデに向き合う。
「あのさ。みんながよくわたしのおかげだなんだ言ってるから、この際はっきり言っておこうと思うんですけどねえ」
大きめな声を出して、後ろから亡霊のようについて来るみんなにも聞こえるように話し出す。
「わたしはっ! 当たり前のことをしているだけであって! お礼を言われたくてしているわけではないからねっ!」
「えっ?」
「わたしがみんなを助けたわけじゃない。ちょっとだけ力を貸してあげただけじゃん。そりゃあわたしが全部自分の力で君たちを助けたのなら、お礼だってなんだって存分にいただいてたかもしれないけどさ!」
「だからっ!」と、葵はニカッと笑って続ける。
「原動力は全て、みんなの中にあったんだ。それに気づいて欲しかっただけなんだよ。気づけたから、みんなこうしてるんでしょう? わたしはほんとに、最初から最後まで君らを救ったわけじゃないんだよ。みんな一人一人が出した結果。だから、もうわたしにお礼なんて言わなくていいの! わかった!?」
ぐいっと腕を引っ張り、カナデの顔を覗き込みながら。
「返事は」
「は、はい」
「うん! よろしいっ」
わしゃわしゃ~っと、賢いカナデ犬の頭を撫で回す。
「それじゃあ皆さん? もう暗くなってきたので、今日は帰りましょうっ」
にっこり笑うと、みんなも小さく笑ってくれた。
「(折角の修学旅行なんだから、思う存分楽しまないとねっ)」
葵は「ほいっ!」と、カナデに手を伸ばす。
「え?」
「心配性なカナデくんのために、バス停までなら手を繋いでやってもいいぞい」
「……ははっ。何その上から目線っ」
「いやならいいけど~」
手を引っ込めようとしたら、すぐに大きな手に絡め取られた。
「じゃあ、バス停まででいいからこうさせて? 心配だから」
――もう放さないよ。
手のぬくもりと、やさしい瞳から、そう伝わった。