すべてはあの花のために⑥
骨が折れてしまいそうなほど手が強く握り潰され、葵は痛みに顔を歪める。
「っ、……そうだったんですね。じゃあワカバさんは寂しかったんだ」
「……ええ。とても」
少し緩まったので、葵はまた話を続けた。
「それじゃあワカバさん。あなたが一番最初に産んだ男の子には、なんて名前をつけてあげたんですか?」
「……つばさ」
「格好いい! 立派な名前ですね。どうしてそう付けてあげたんですか?」
「長男だからって。家のこと。考えて生きて欲しく。なかったから……」
「そうか。自由に羽ばたいていって欲しかったんですね」
同意するように、ワカバはコクンと頷いた。
「ツバサくんとは、どんな話をするんですか?」
「……あの子が、学校でモッテモテな話とか」
「(母さん……。いつの話を……)」
「おお! モッテモテですか!」
「女の子に告白されたーとか」
「(かあさんっ。やめてっ)」
「おお! それからそれから?」
「……あとは、家族みんなの話。とか……」
「ふむふむ。ツバサくんとは、いつまで一緒に暮らしていましたか?」
「……あの子、が。小学校を、卒業するまで……」
「どうして?」
「……とうせいさんに。嫌われちゃって。わたしは追い出されちゃった。……離ればなれに。なっちゃった……」
「何があって、そうなったんですか?」
「……別居」
そうしていたらまた、ワカバの手に、強く強く握られた。
片手は、葵の手首にまで上がってきている。痣ができそうなほど強く。
「……っ、わかば、さんっ」
痛がる葵に、三人は腰を浮かせようとしたが、葵がそれを目で制した。
「ワカバさん……? それから、誰を産んだんでしたっけ」
「……はる、ちゃん」
「そう。そうですね。……っ、それから……?」
「……? それから。何もない」
「っ。じゃ、じゃあ。ハルナさんの、お名前の由来は……?」
「……晴れた、とても綺麗な空だったの」
「産まれた時が、ですか……?」
「……ええ。そうよ」
「……っく。……でもあなたは、同じ日にもう一人。一緒に、産んだはずですッ」
「……いいえ。産んではないわ」
「ワカバさん……!」
「同じ日には」
「え……?! ――っ、うっ」