すべてはあの花のために⑥
葵はそっとワカバに腕を回し、その冷たくなった体をやさしく抱き締める。
「……? わたしは今でも大好きよ?」
「……っ、ええ。そうでした。すみません」
「あおいちゃんはー? あの子のこと、好きー?」
そう聞いてくるワカバに、葵はにっこり笑って答えた。
「はい。不器用で口が悪くて悪魔だけど。友達が大切で。努力家さんで、隠し事がとっても上手な彼が、……わたしは大好きですよ」
「彼……? あおいちゃん。はるちゃんは女の子よー?」
葵はワカバの背中を摩りながら、ゆっくり落ち着いた声で話す。
「ワカバさん。わたしと一緒に、ちょっとだけ頑張って欲しいんです」
「んー? はるちゃんとお友達になるお手伝いー? それなら頑張っちゃおっか~」
「いいえ? ……ハルナさんたちを、助けるお手伝いを。一緒にして欲しいんです」
「……たす、ける……?」
「ワカバさん。まずはゆっくり深呼吸してください」
「んー? ……すー。はー……。……これでいい?」
「はい。もうバッチリですね」
葵はゆっくりと話をしながら、彼女の手をやさしく包み込む。
「わたしのお話を、聞いていて嫌だなって。ちょっとでも思ったら、この手をぎゅって握ってください」
「……? いや?」
「はい。例えば、大きな声出したくなったり、何かを投げたくなった時に。わたしになら何でもしていいので、ちょっと嫌だと思ったら手を握ってみてください」
「……うーん。よくわかんないけど、わかった!」
楽しそうに頷くワカバの手を、一定のリズムで揺らしながら。
「それじゃあまず。……ワカバさんのご家族は、誰がいますか?」
「んーっと。……お父さんと、お母さんと、わたしと、お兄ちゃん!」
「あー残念。そっちじゃない方です」
「……? どっちー?」
「それじゃあ、ハルナさんはあなたにとってどんな存在ですか?」
「はるちゃんはー、わたしの可愛い可愛い娘よ~」
「おー。ということは、ワカバさんはご結婚なさっていたんですね?」
「そうねー。……結婚、したわ」
――少しだけ、手の力が強まる。
「旦那さんはどんな人ですか? よかったら教えてくれませんか?」
「……くじょうとうせいっていう人」
――また少し、強くなった。
「もしかして、議員さんの?」
「ええ。国会議員の」
「そっかそっか。あなたはその人のこと、愛してたからご結婚なさったんですよね?」
「……わたしは。愛してたの」
「ん? どうして『わたし“は”』なんですか?」
「……わたしは。あの人に嫌われちゃったの」
「どうしてそうだと?」
「喧嘩しちゃって。それで、わたしのせいだって。そう言うの。……わたしは。あの人を支えてあげたかったのに……」
「……どうして喧嘩をしてしま、っ」