すべてはあの花のために⑥
「あおいちゃーん! 会いたかったー!」
「え!? と、トーマさん?!」
そんなことを考えていたら、何故か遅れてトーマが登場。
「何で俺呼んでくれないの!? せっかくもうこっちに住んでるのに!」
あれから無事にいい新居が見つかって(※葵の家から徒歩5分)、トーマもこちらにも十分慣れてきていた。まあ慣れるも何も故郷ですけど。
「あ。ドーモ」
「なんで嫌そうなの……」
「電話に出ないからってずっと鳴らさないでください。何時間鳴らし続けるんですか!」
「えー? だって声聞きたいしー」
こちらへ来ても、彼は左耳に着いているピアスを外すことはないのだろう。
キクとキサの思いを知っていながらも、まわりに流され、自分の思いも告げないまま生きてきた彼にしたことは、本当に正しかったかはわからない。でも、こうして自分の気持ちに正直で、両親ともきちんと話せ、嬉しそうに笑っている彼を見たら、これでよかったのだと、そう思ってしまう。
「とーまクン! それはストーカーって言うんだよ!」
「あーちゃん! 被害届出しに行かなくっちゃ!」
トーマから距離を取る二人も、とっても強くなった。
アカネはきちんと両親の、祖父の気持ちを聞いて、自分の思いも言えて、決められた道を変える……まではできないかもしれないけれど、回り道をしてもいいと言ってもらえた。今はもう髪もスッキリしていて、視界を遮るものは何もない。
「あおいチャン? 楽しんでる?」
「あーちゃん! 小っちゃくはなれないけど、いつでもおれお持ち帰りしていいからね!」
「えっ。じゅる」
「やめとけ……」
オウリはみんなの前以外で笑うことなんてできなかった。声だって出せなかった。でも、心の中にある過去を溶かすことができたから。母ともおじ、……父のヒエンとも、話ができたからこそ今はこうして、ずっと嬉しそうに笑ってくれる。ブレスレットも、きっと今は母の元に戻っているだろう。
「流石にお持ち帰りはやめとけ。お前が警察行きだ」
「え。流石にしないよ~。あははー……」
「いや顔引き攣ってるから」
「は……!」
完全に男の子の姿になったツバサは、髪もさっぱりして、小指に着けてたリングがなくなり、ピアスも一つだけになっていた。リングは、妹の生きた証拠として、きちんと大事に仕舞っているらしい。
「……あとで俺の話聞いて」
「う、うん」
熱っぽい瞳でそう言われたら、逃げられない。それに、……やっぱり男の彼にはまだ慣れなくて。低い声に少し、動揺してしまう。