すべてはあの花のために⑥
うぎゃー! 誰かー! 助けてー!
「一年間!」
「お疲れ様でしたあーッ!!」
「ほい。お疲れさん」
終業式もあっという間に終わり、二人に準備してもらったたくさんの料理やデザートを目の前に、各々大好きな飲み物を持って乾杯した。
みんなで、この一年であった出来事を話した。
「まあなんといっても、桜のあっちゃん登場でしょう! あれは衝撃だったもん! まさか……え!? 道明寺さんだよね!? って、目を疑った!」
カプレーゼを食べながら、一番楽しそうに笑うキサ。
「あれはオウリくんが可愛すぎたのが悪い! 可愛いことは罪になるんだからね! 覚えておいてねオウリくん」
ここでも大丈夫と言われたので、葵は仮面を取っ払っている。
「ウサギさんはオオカミになるんだからね? 覚えておいてね、あーちゃん。んーちゅっ」
「……!?!?」
そんなことを言いながら、葵のほっぺにキスを落としてくるオウリは、チカゼに羽交い締めされてたけど、綺麗に一本背負いを食らわしていた。
「あー……。オレ最初の頃よくぶん投げられてたなー……」
仰向けに寝転がるチカゼは、本当に逞しくなった。決して両親に見放されたわけではない。でも、寂しい気持ちに打ち勝てられなかった。
「またいつでも投げてあげるからね~」
「またいつでもキスしてやるよ」
「……!?」
ツンデレじゃなくなったのは寂しいけど、彼の変化が嬉しくてしょうがない。ピアスはきっと、両親の写真のところへ飾ってあるだろう。
「ダメだ千風。葵は俺とマンツーマンですることがあるから」
「糖尿病教室ね……」
葵の腰に抱きついてそう言ってくるアキラの左耳には、もう何もない。綺麗になった左耳を見ていたら、アキラが勘違いして顔を近づけようとしてたけど、カナデに引き剥がされていた。
「もうっ、アオイちゃん! 油断したらダメ!」
「すちゃ!」
「いや、俺にはちょっとガード緩くしてよ。異常に固過ぎるから……」
もう警戒して話すこともなくなったカナデの胸にも、ロザリオはなくなっていた。
「はい。あっちゃん、あ~ん」
「ん? あーん」
「あ! ズルいキサちゃん!」
葵にも食べていたカプレーゼを分けてくれたキサの左手中指には、桜色のリングが今でも綺麗に光っている。きっとすぐ、右手の薬指にも。そしてそのうち左手の薬指にも、一段と綺麗なリングがその細い指に輝くのだろう。
「美味しい?」
「ん! おいひ~!」
彼女も、家から脅されていたに等しい。そしてトーマも。