すべてはあの花のために⑥
そう決心して、シントは立ち上がろうとした。
「――……!?!?」
しかしその直後、体が何かを思い出して震え上がる。
そして徐々に思い出す不快感。薄気味悪い笑み。嘲笑。……嫌な、予感がする。
『それじゃあシント!』
「――――――――――!!!!」
その時、ノイズの混じった映像が一気に頭に流れ込んできた。
激しい動悸に息切れ。あまりにも強い衝撃で、立っていられなくなる。でも、それは治まることはなく、どんどん酷くなり、吐き気を催した。
――――不味い。
『残念なことに、これは一回しか聞けなくなってるの。あなた以外に聞いて欲しくなかったから』
「っ、待って! ダメだ! あおい!!」
『延びた時間の分。あなたがきっちり仕事をしてくれるのを祈ってるね』
「ダメだ! これは」
『それじゃあ、会う時はわたしが運命から、道から解放された時かな?』
「待て! このままじゃお前は――」
『それじゃあ、またね? シント。しっかり親孝行するように! バイなら~』
「――っ、あおいッッ!!」
必死に、向こうの彼女を呼び止める。これが録音だとを忘れるほど、全身に力が入らなくなり、血の気が一気に下がる。
そして、途轍もないほどの焦燥感が、激しく自分を襲ってきていた。
「お、おい! シント! どうしたんだ!」
「楓、急いで救急車を」
「シン兄?! しっかり!」
真っ青な顔色で、息も上手くできていないシントに、三人は駆け寄った。シントは脂汗をかき、つらそうに何度も浅く息を繰り返している。
「だ、めだ。このままじゃ……」
「シン兄。俺がわかる?」
「甘党のアキ」
「いや、わかってるんならいいんだけど……」
体も上手く力が入らないのか、もたれ掛かっているというのに、アキラの服を掴むその手だけは強く握り締められている。「だめだ。このままじゃ……」と、そう言う度に、これ以上まだ力が入るのかと思うほど手が真っ白になっていた。
しかし、シントの目は、焦点が合ってないようで、パニックを起こしているよう。
「……まずい。まずい、まずいまずい!!」
「信人、ちょっと落ち着きなさい」
「父さんどうしようっ。葵が。……っ。あおいがっ!!」
「お、おいシント。アオイちゃんが、どうしたんだ」
みんなの声に、やっとシントの焦点が合う。
「……戻らなきゃ」
正気に戻ったはずのシントからは、そんな言葉が漏れた。
「父さん! 俺、急いで戻らなきゃ……!」
「……ダメだ。それは提携で葵ちゃんに止められて」
「そんなこと言ってる場合じゃないっ!!」
焦りしかないその大きな声と、今にも泣き出しそうな彼から、衝撃の言葉が告げられる。