すべてはあの花のために⑥
若干噛んだんだよね
「……シント。見つかったかな……」
その頃葵は、窓から見える大きな大きな月を見つめていた。
「そういえば【最初で最後の、最高すぎる執事さん】のとこ、若干噛んだんだよね。……取れてなかったらどうしよう」
にしてもと。葵は今一度、今夜の月を見上げる。
「……なんだろう。胸騒ぎがする」
その大きすぎる月が今日は、少し不気味に見えた。
どうして? 自慢じゃないけれど、作戦は完璧だった。
そもそも、皇の長男がここにいることをシランたちが知っているなんてこと、家は知らない。だから、死んだことにしていたシントの荷物が警察から届いても別に不思議には思わないだろう。
だからそれに、自分のことを調べてくれていた資料と日記、そして感謝状とレコーダー、そして地図を忍ばせておいたんだ。遺体が出てくるはずもないから、世間的には行方不明扱いになってるけれど。
「アキラくんとの結婚式を挙げる予定は、彼が18になる6月20日だった……」
だから、彼との結婚が破棄されれば、取り敢えず次の相手が見つかるまで。それかまた彼との縁談を取り付けるまで、時間が稼げる。
「それは、シランさんとの提携によって絶対に何が何でも承諾するなって言っておいたから大丈夫だ」
なんせ家が欲しいのは『赤』だ。赤はこれから家にとっては大事な存在となるだろう。
だから、そんな赤の相手になるなら、それ相応の相手が必要だ。そして赤が好いた相手でなければ……。
だから破棄されればもう一度、相手を捜すか、なんとしてでももう一度アキラとの縁談を取り付けなければいけない。
「……だから、時間が稼げたはず、なんだけど……」
どうして逆に、短くなったんじゃないかとか。そんなこと思うの……?