すべてはあの花のために⑥

「――――!」


 その時、まるでその予感に応えるかのように、部屋の内線が鳴った。相手は珍しいことに義父だ。


「……嫌な予感がする」


 まだ深夜ではない。そして『赤』ではなく『わたし』に用があると言ってきた。
 内容は、今すぐに義父の仕事部屋へ来るようにとのことだったが……。


 ――おかしい。何かがおかしい。

 屋敷内には誰もいない。
 ただ、葵の歩く音が響いているだけ。

 葵の部屋があるのは別邸。義父の部屋は、本邸にある。
 場所は知っていた。でも、自分は入ったことなどなかった。


「(……着いてしまった)」


 どの扉も見たようなものだ。
 生徒会室や理事長室にはもうだいぶ劣るが、それなりには装飾が施されている扉。

 そして葵はその扉を、吐きそうなほどの嫌な予感とともに、ゆっくりと開けた。



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