すべてはあの花のために⑥
「はい。それじゃあ一つ目。あんたはアキくんが好きなんだっけ?」
「……『わたし』は、好きだよ」
「ふーん。……じゃあなんでアキくんにだけ返事すぐ言わなかったの? 告られたんでしょ?」
「…………」
「答えは迅速且つハッキリと」
「伝える方法を変えたからです」
「何それ」
「黙秘します」
「言えないこと? それとも言いたくないこと?」
「……両方だ」
ヒナタは「そう……」と返したあと、少し思案顔になる。
「あんたはいつからアキくんが好きだったの」
「……『わたし』がアキラくんを好きになったのは、彼の七つの誕生日パーティーに行った時」
みんなは弾かれたように顔を上げる。『そんなに前から好きだったのか』と。
「……あ。アオイちゃん。ちょっと、待ってよ」
カナデはふっと、思い出したように尋ねた。
「アオイちゃん、言っていいかどうかわからないんだけど……」
「好きがわからないって話?」
その話を聞いていた面々は驚かなかったけれど、『言われてみれば』と心の中で同じことを思っていた。
「俺はそうやってアオイちゃんに振られた。本当だと思ってたんだけど、そんな前からアキが好きならちゃんとわかってるじゃん」
「……『わたしは』ね」
「どういうことだよ。説明しろ」
こめかみに青筋を立てたチカゼが、問い質した。
「そのままだ。わたしは好きがわからないし、『わたし』はアキラくんが好きだ。それ以上でもそれ以下でもないし、もうこれ以上このことは話したくもない」
はっきりと告げて壁を作ろうとする葵に、みんなは険しい顔をしている。
「そ。わかった」
ヒナタは一人、素っ気なくそう返すけれど。
「……いいでしょもう。いい加減にこれ解いて」
「いいわけないだろ!」
チカゼは、ガツンッと机を蹴り上げた。葵をはじめ、みんながびくりと体を震わせる。
「ちかく」
「なんだよ……」
音を立てそうなほど強く、手を握り締めながら。
「なんなんだよ! お前はオレが考えてる生徒会メンバーじゃないんだろ!?」
静かな生徒会室に、彼の悲痛な叫び声が響く。みんなは葵たちの様子を見守った。
「……そうだよ。そう言ったじゃん」
「なん、だよっ。そう、じゃんか……」
「違うよチカくん。『わたし』が、彼と結婚したいって言ったんだ。政略結婚じゃない」
「っ! ……最初っからもう。お前に、届かねえじゃん」
「チカくん。それはちが」
「違わねえだろうがッ!!」
「ちかくん……」
「何だよ。そんなにオレらおちょくって楽しかったかよ」
「違うよ。ちゃんとわたし、言ったじゃない」
「大事なこと隠してた奴なんか知るかよ」
「っ、それはっ……」