すべてはあの花のために⑥

 チカゼは背中を向け、扉へと歩いて行った。


「待って! ちかく」

「もう話しかけんな。気分悪ぃ」


 彼はバタンッと大きな音を立て、生徒会室から出て行った。

 彼が出て行った生徒会室は、とても静かだった。その沈黙のせいで、耳が痛かった。
 にもかかわらず、遠くの方でピキ……とヒビの入る音がする。


「……アオイ、ちゃん」


 カナデの声には、応えられなかった。そのヒビが入ったものが何なのか、わからなくて。


「……アオイちゃん。アオイちゃん? もう一回聞くよ」


 何度も呼ばれてようやく、カナデの声が届いてゆっくりと顔を上げる。


「アオイちゃん? 俺はアオイちゃんが好きだよ? アオイちゃんは? 俺の返事は、なんて返してくれる?」

「……わ、たしは……」


 ゆっくり、小さいけれど、きちんと伝える。


「……そう、言ってもらえて。すごく、嬉しいんだ」

「うん。それで?」

「……ごめん、なさい」

「なんで? 理由は?」

「……っ。わたしには。わからない。から。カナデくんが向けてくれるような……好きが」


 そう言い切るが早いか、カナデも立ち上がった。


「でもアオイちゃんはアキが好きなんでしょっ!?」

「……『わたし』は。アキラくんが、好き」


 カナデもつらそうな顔をする。


「わけわからない……。わかるように説明してよ……っ」

「……ごめん。なさい……」


 カナデも背を向けて「ちょっと頭冷やしてくる」と出て行った。また、ピキっと音が鳴った。


「ちーちゃん……」

「かなチャン……」


 二人は立ち上がって、扉へと向かう。


「あーちゃん。ちーちゃん、怒って出て行っちゃったけど、あーちゃんのこと嫌いになったわけじゃないからね」

「かなチャンも、頭の中整理してこようと思っただけだからね」


 何も返さない葵を、二人は心配そうに見つめる。


「あーちゃんも、もう一回ちーちゃんにもかなちゃんにも、もちろんおれらにも説明して?」

「……何回やっても、わたしは同じことを言うよ」

「あおいチャン話すの上手でしょ? 今回は難しすぎておれらにはわからなかったから」

「一番わかりやすい言い方だよ。これ以上上手く説明できるわけがない」


 二人の雰囲気が……――変わる。


「何それ。それがわからないおれらのこと、馬鹿にしてるの」

「……えっ。そんなつもりは」

「あおいチャンも、ちょっと頭冷やせば」

「っ! あ、アカネくん! オウリくん! 待って……!」


 冷たい視線を最後に、二人はさっさと扉から出て行った。


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