すべてはあの花のために⑥
「よっこいしょ!」とキサは立ち上がった。
「だって、わかりやすくは言えないってことは難しくは言えるんじゃないの? あっちゃん得意じゃん」
「……もう。何も言いたくない」
「そう? でも、多分あっちゃんが何か言わない限り、みんなは納得しないだろうし、ずっとこのままみんなと会うこともできない、話もできない。名前だって呼ばせてもらえないよ? それでもいいんだ、あっちゃんは」
「……よく。ないけど……」
「全部じゃなくてもいいと思うよ? 少しだけでもいいと思う。言い方を変えて、みんなにも教えてあげたら? 秋蘭は知ってるんだもん。自分たちも教えて欲しいなって、あたしは思うよ?」
「……わたしは、みんなに嫌われて当然だから」
「え。あっちゃん?」
葵は頭を両手で抱え蹲る。
「……だいじょうぶ。わたしはちゃんとっ。わかってる。わたしは最低。気味が悪い。こんなわたしなんかに、友達なんてできない。……わかってる。ちゃんと。わかってる……っ」
ぶつぶつと、彼女はそう呟いていた。まるで、自分に言い聞かせるように。
「『もしあたしたちがあっちゃんに酷いことされたって、あたしたちがあっちゃんのこと嫌いになるわけないんだから』って、修学旅行のバスの中でそう言ったの、覚えてない?」
「…………」
「あっちゃんならきっと覚えてるよね? ……嫌いになんて、なるわけないじゃん」
「……? キサ。ちゃん……?」
キサは、座っている葵の頭を、抱え込む。
「もし、あっちゃんに菊ちゃん取られたって、あたしはあっちゃんのこと嫌いになんてならないよ」
「……いや、こっちからお断りだけど。あんなダメ男」
「えー! どこが?! 菊ちゃんめっちゃ格好いいじゃん! あっちゃん知らないの!?」
「……知りたいとも思わないけど」
「大損してるわー……」
「いや、別にいらん情報だわー……」
少し調子が戻った葵に、キサはやさしく笑いかけた。
「今、あたしが誰かにされて一番傷つくのはそのこと」
「……え」
「だから、もしあっちゃんに取られちゃったら、ああ。あたしの魅力はまだ足りなかったんだって思うし、あっちゃんなら逆に応援するね!」
そんなことをキサが自信たっぷりに言うので、葵は目を見開いたあと、口を手で覆った。
「……ごめん。想像して気持ち悪くなった」
「え。どんだけあっちゃん菊ちゃん嫌いなの……」
少しずつ、調子が戻り始めている彼女へ、もう一度笑顔を送る。
「まあたとえばだよ? あたしはそれだけあっちゃんが好きだし、あっちゃんなら菊ちゃんを幸せにしてくれると思うから、別にあっちゃんを嫌うことなんてないよ?」
「……幸せに。してあげられないかもしれない」
「たとえそうだったとしても、あっちゃんを選んだのは菊ちゃんだ。だからってあたしが菊ちゃんを諦めるつもりなんてないけど、それのせいであっちゃんを嫌いになることなんてない! 絶対だ!」