すべてはあの花のために⑥

 膝に顔を埋めながら、小さな肩を震わせながら、葵はこもった声で話し出す。


「でも。……謝っても。許してもらえないかもしれない。会ってもくれないかもしれない」

「……あっちゃん」

「それが怖い。みんなに嫌われるのだけは。嫌、なんだっ……」

「嫌うことなんてないって言ったじゃん」

「みんなから直接そう聞けたわけじゃないから……」

「……そっか」

「でも、それでも。……みんなに『ごめんね』って言う。いいたいっ」

「……うん。そうしてあげて?」

「あと。言えないことは。言わずに。難しく伝える。……それで。ここまでしか言えなくて『ごめんなさい』って。そう言う」

「うん。まずはそうしよう? それからどう来るかは、あたしもあいつらじゃないからわかんないし」


 キサは葵の肩に手を置いて、宥めるようにぽんぽんと叩いた。


「きらわれたく。ないんだっ」

「……うん」

「幻滅だってっ。されたくない……」

「そんなこと、あいつらはしないよ」

「わたしも。そう思ってる……」

「……そっか」

「でも。その人の気持ちなんてわからないからっ。大丈夫だって。思ってて。……嫌われちゃったら。わたし。どうしていいか。わからない」

「……あっちゃん。信じて。あたしの……あたしたちの友達は、仲間は、そんな奴じゃないよ」

「うん。知ってる」

「うん。信じて? あっちゃん。絶対、大丈夫だからね」

「……っ、うん。ありがとう。キサちゃん」


 葵はゆっくりと顔を上げて、泣きそうな顔で、小さく笑った。


「きさ、ちゃん」

「ん? なあに?」

「今まで。隠してて『ごめんなさい』」

「…………」

「言えなくて。……『ごめんなさい』」

「…………」

「悲しそうな顔、させちゃって『ごめんなさい』」

「あっちゃん……」


 葵はそっと、キサの手を取る。震える手で、きゅっと遠慮がちに握った。


「話。聞いてくれて。ありがとう」

「っ、あ、っちゃん」

「だいじょうぶだよ。……でも。キサちゃんも。キサちゃんの友達も。いっぱい傷つけちゃった」

「大丈夫。あいつら今めちゃくちゃ後悔してると思うから」

「……こうかい?」

「あっちゃん。女同士でも、やっぱり言えない?」

「……うん。言えないから、難しくして伝える」

「ははっ。そっか。わかった。待ってるね」

「……うん。ありがとう」


 二人して、小さく笑い合った。


< 35 / 251 >

この作品をシェア

pagetop