すべてはあの花のために⑥

 ずず……と葵はコーヒーを啜る。


「え。あっちゃん? もう一回お願いします」

「……? 最後のでお願い?」

「最後って……え。菊ちゃん?」

「うん。……キサちゃん、嫌わないでくれるんでしょう?」

「え。う、うん。それはそうだけど……え? あっちゃん。あたしが言うのも何だけど、あいつ相談事とか一番向いてない教師だよ?」

「でもキク先生がいい」


 キサは、少しだけ複雑そうな顔をしていた。


「嫉妬?」

「さっきキクちゃんのことぼろクソに言ってたから、そういったことはないってわかってるんだけど……」

「もしかしたら、そういうことするかもよ?」

「しないよあっちゃんは。そうでしょ?」


 何の根拠だってないのに、キサは自分のことを信じてくれる。


「……信じてもらえるの、すごく嬉しい」

「そうでしょー。あっちゃんも信じてやればいいんだよ、あいつらを」


 先程まで耳鳴りのように聞こえていたピキピキという音は、その頃にはもう聞こえなくなっていた。


「あ。借りる時はちゃんとキサちゃんに許可取るからね」

「うん。物みたいだね。今度貸出票でも作っておくよー」


 そんな冗談はさておいて。


「あっちゃん、菊ちゃんなら話せるの?」

「……全部じゃないけど、キク先生はわたしの担任だからさ」


 葵は小さく笑うだけ。


「大丈夫だよ? ちゃんと他にも話せる人はいるから。キク先生にはたとえ、人類滅亡の危機だとしても手は出さないから安心して」

「そこまで言われると、彼女のあたしとしては複雑なんだけど」

「大丈夫。わたしだって、大好きで大切で、信じてくれるキサちゃんの嫌がることなんてしたくない。わたしは、……絶対にしないから」

「……うん。ありがとうあっちゃん。あたしもあっちゃんが大好きだ! 大切で信用できる友達で、仲間だよ!」


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